静かなるボクサー〈1〉宿命のライバル編
稲積魁太(いなづみ・かいた) 原案:鰆木周見夫(さわらぎ・すみお)
小説 定価(800円+税) 2015年2月13日発売
<内容紹介>
圧倒的なスケールで描くボクシングを超えた究極のボクシング小説、壮大な人間ドラマ。
これまでに8戦闘いながら未だKO勝ちのない高木正弘。パンチ力がないわけではない。相手を力で制する前にディフェンス技術を完璧にさせようというジム会長の方針の結果だ。KO勝ちがないゆえにファンの関心もマスコミの興味を惹いていないが、自身は密かに世界チャンピオンをめざしている。そんな正弘の前に、日本最速で世界チャンプに上り詰めようとしている天才ボクサーがあらわれる。ジャズ・サックスプレーヤー、伝説の巨星ジョン・コルトレーンの曲に乗って静かに登場する同じバンタム級の立岡龍次。冷静沈着な立ち居振る舞い。派手なパフォーマンスは皆無。すでに歴戦の強者の風格を漂わせている。立岡は前評判に違わず世界戦前哨戦の相手をわずか2Rでマットに沈め、本番の世界戦をもレフェリーの不利なジャッジを撥ねのてけて5RKO勝ちし、世界王者に躍り出る。立岡の眼中に、ノーランカーの正弘の存在などなきに等しい。それでも、正弘陣営は、将来、絶対に闘わなければならない難敵・立岡のボクシングの分析を始める。しかし、どう分析しても立岡の弱点を見つけることができない。立岡龍次と高木正弘。若いふたりの世界チャンピオンベルトをかけた運命の闘いがいつ訪れるのか。来るべきその日に向けて、いま、物語は静かに始まっていく。
リングに上がれば、ボクサーは孤独な闘いを強いられる。信じられるのは自身のみ。しかし、その信じられる自身のなかには、これまでの自分を支えてくれた多くの人たちの思いが詰まっている。親、兄弟姉妹、妻、恋人、学生時代の恩師、同級生、ジムの会長、トレーナー、職場の同僚、先輩、いつも立ち寄る食堂のおじさん、おばさん……。ボクサーはさらに、人類の歴史、自身が生きていた時代のあらゆる出来事の影響も必然的に受けて闘うことになる宿命を背負っている……。
本シリーズ〈静かなるボクサー〉は、縦軸で若いふたりのボクサーが世界戦で激突するまでの過程を濃密に描き、横軸でボクサーに関わる人たちの歴史、哲学、思想を丹念に描いて展開する、ボクシングの枠を超えた壮大な人間ドラマである。本書〈宿命のライバル編〉はその注目すべき序章に位置づけられる。
<目次>
第一章 熱い胎動~震撼した〈ボクシングの聖地〉
第二章 秘めた闘志~ジョン・コルトレーンの『至上の愛』に乗せて
第三章 夢の記憶~世界チャンピオンを目指したそば打ちボクサー
第四章 苦い体験~東日本大震災を乗り越えて
第五章 悔いなき闘い~遅すぎた日本タイトルマッチ
第六章 消えぬ宿命~強敵、はるかなり
〈著者紹介〉
稲積魁太(いなづみ・かいた)
出版社勤務を経てフリーランスのライターに。これまで、科学、歴史、哲学、心理学、音楽、スポーツなどの単行本の編集、執筆に数多く関わり、その過程で培った広範な知識を武器に、ひとつの枠にはまらない重層的物語巨編の創出をめざしている。