いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂
第101回:地震と原発
今年2月13日、午後11時過ぎ、福島県沖を震源とするM7.1の地震が発生した。最大震度を記録したのは、宮城県の蔵王町や福島県相馬市などで震度6強。東京は震度4だったが、あの2011年3月11日の地震を思い起こし、無意識のうちに天井の隅を見つめていた。
あのとき東京は震度5弱だった。揺れは強く長く、いつまでも続いていた。天井の隅、3本の直線が一点に交わったところが大きくゆがみ、ゆがんだまま一気に倒壊かと思わせられた瞬間もあったが、どうにか元に戻ってホッとしたものだ。今回も揺れを感じた瞬間、思わず天井の隅に目をやっていたが、あのときのゆがみほどではないことを確認して安堵した。
10年前は地震による津波の被害も大きかったが、原発関連の被害も尋常ではなかった。津波は天災だが、原発事故はそうではない。原発さえなければ事故も被害も起きようもないのだ。地震による被害や人為的なミスを考慮するなら、原発は稼働させるだけでも常に事故が起きる可能性がある。大事故ならわけもなく自治体ひとつくらい消えてしまう。住民は消え去り、廃炉作業施設が並び、作業員ばかりの往来になる。
2月13日の翌日、原子力規制委員会は東日本にある原発や原子力施設で異常は確認されていないと発表した。東京電力によれば、福島第1原発5、6号機で使用済み核燃料プールから水があふれたほか、タンク下部からの滞留水の漏れがあったという。
しかし2月19日になって、東京電力は福島第1原発の1、3号機の異常を発表した。原子炉格納容器内の水位が30センチ以上低下していて、しかも1日数センチのペースで低下し続けているという。2011年3月の事故で損傷した部分が、今年2月の地震でひろがったものらしい。原子炉の温度や、周囲の放射線量に異常はない。炉内には溶け落ちたデブリが残っていて、冷却のためにいまでも毎時3トンの水を注水しているという(『東京新聞』同年2月19日付)。
これには驚いた。2011年の事故以来、1、3号機からそれぞれ毎時3トンの水が原子炉建屋内に漏れ、デブリの冷却ができなくなるため、同量の水の注入で水位を保ってきていたのだ。それが、今回の地震で傷口がひろがり漏れ出る量が増え、毎時3トンの注水では間に合わなくなったのである。そのため、3月5日から1号機への注水量を増やしたようだ(NHK「NEWS WEB」同年3月5日付)。同記事によると3号機の水位は安定していて、注水量を増やしたのは1号機のみ。また、注入した水は循環させて再利用しているという。
2011年の事故以来、東京電力の記者会見の取材を続けているおしどりマコさんのツイッターによれば、3号機は水位の下がり方が緩やかになった程度で、漏れが増えたことに変わりはないらしい。また、同ツイッターにはこんな書き込みがあった。
「まぁ、現場の方にうかがうと、水位低下はカモフラージュで、地震後、現場で問題視しているのは、窒素ガス分離設備の1系統が故障して復旧のメドが立って無いことの方が大変、と伺いました」(同年3月4日)
この件についてはまったく追加情報がないが、公表できない何かが起きていることは確からしい。大きな問題ではないことを祈るのみである。
先に記したように原発には危険が付きものだが、増えつづける使用済み核燃料などの核廃棄物や膨大な汚染水の処理の問題も大きい。10年前の事故直後、もう日本の社会は大きく変わらざるを得ない、原発も撤退というような空気が流れた瞬間もあったが、いつの間にか、そんなことはまったくなかったかのように元に戻ってしまい、さらにもっと後退したような雰囲気さえ感じる。
2018年3月、資源エネルギー庁が公表した「第5次エネルギー基本政策」によると、2030年に実現を目指す電源構成比率は次のようになっている。①再生可能エネルギー 22〜24% ②原子力 20〜22% ③化石燃料(石油・ガス・石炭)56%。
2018年度の原子力の割合は6%なので、大きく増やす方向にある。とくに最近は、脱炭素社会実現のためには原子力は欠かせないとばかりに、原発再稼働に突き進むような勢いさえある。日本は過剰なプルトニウムを減らすために、MOX燃料を用いるプルサーマル発電の方針だが、プルトニウムが目に見えて大きく減るわけでもなく、新たにより危険な使用済みMOX燃料が生じることになる。
原発についての最近の世論調査では、いますぐにゼロにしてほしい、将来はゼロにしてほしいと答えたひとを合わせると76%にのぼる。さらに90%のひとびとは、原発事故はまた起きると受けとめている。近い将来大きな地震はまた起きるだろうし、日本の原発はそれに耐えられる耐震基準にはなっていない。10年前の福島のような光景を再び目にすることになるのかもしれない。
原発から逃れられないのは日本に限ったことではない。脱原発の姿勢を明確にしているのは、ドイツ、ベルギー、スイス、台湾などで、多くは依存度を減らす方向ではあるが、中国、ロシア、インドのように積極的に増設している国もある。
イギリス政府も、原発なしでは2050年までの温室効果ガス排出量ゼロの達成は不可能という方針である。現在ロールスロイス社は16基の高性能小型原子炉(SMR)の建設を進めていて、政府もそれを積極的に後押ししている。SMR1号機は2030年頃に完成予定だが、膨大なコストがかかる巨大原子炉よりも容易に建設可能という。これを報じる記事をいくつか読んでみたが、エネルギー効率や建設コストの話題ばかりで、核廃棄物や安全性について触れたものはなかった。
原発を稼働しつづけるかぎり、増える核廃棄物の処理の問題からは逃れられないのだ。おそらく半世紀以上も前から、専門家たちの脳裡には懸念材料としてあったものだが、いずれ解決するだろうと先送りしてきて半世紀が過ぎた、ということである。どの国でも、核廃棄物はたまりつづけるばかりで、解決策は先送りである。
3月7日に予定されていた新型コロナウイルスによる緊急非常事態宣言の解除では、新聞、テレビが大騒ぎだったが、結局2週間の延長となった。ところで2011年3月11日に発令された原子力緊急事態宣言はいまだに解除されないままである。もしかすると、ぼくが生きている間に解除されることはないのではないか。 (2021/03)
<2021.3.11>
日本の原子力発電所(資源エネルギー庁HPより)
目標とする2030年度の電源構成(資源エネルギー庁HPより)