いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂
第127回:衆参補選・統一地方選挙
小欄124回目「世襲政治家」で、衆議院山口2区補選の岸信千世氏を取り上げたこともあって、その後も同氏の動向を追っていた。自身のホームページに掲載した「家系図」が叩かれて即日削除したと思いきや、時間もおかずにすべてを削除し、真っ白なホームページにしてしまった。もしや、そのホームページのままでの選挙戦かと気になっていたら、裏をかかれてしまっていた。「岸信千世」で何度も検索してもヒットしなかったのだが、ある日「岸のぶちよ」と入れてみたら即座にホームページが現れたのだ。
そんな奥の手まで使って……と呆れたのだが、気がついたのが4月22日、投票日前日である。迂闊だった。いったいいつからそんな手を使っていたのか。いまは「岸信千世」で検索しても、すぐに「岸のぶちよ」へと辿り着けるようになっている。
投票日の4月23日夜、ぼんやりテレビを眺めていたら、投票締め切りの夜8時と同時に衆議院山口4区補選、安倍晋三元首相の後継、吉田真司氏の当確が出て我が目を疑った。そして2時間後には岸信千世氏にも当確だ。
投票率は山口2区が42.41%、4区が34.71%で、あまりにも低い。岸信千世氏については、世襲を前面に打ち出したことへの反発も少なくなかったと思われるが、「投票率が低いほど力を発揮する先祖譲りの強固な組織に救われた」(『日刊ゲンダイ』2023年4月28日付)という指摘には納得させられた。
山口県の有権者の奮起に少しは期待していたのだが、やはり無理だったようだ。ジャーナリストの角谷浩一氏は「異様さ。閉鎖的であり、封建的」と呆れたように記していた(『日刊ゲンダイ』同年4月24日付)。こんな選挙には付き合っていられないと思うのなら、せめて対立候補に票を投じてほしかった。
引き続き、『日刊ゲンダイ』(同年4月25、26日付)の記事を参考にさせていただく。
今回の補選は、衆議院千葉5区、和歌山1区、山口2・4区、参議院大分の5補選が行われた。乱暴な安倍政治をそのまま継承しているかのような岸田文雄政権の中間評価的な意味合いもあったのだが、自民党は3勝2敗という当初の読みを上回って、4勝1敗という結果を出した。惜しいかな、和歌山1区は日本維新の会に譲った。
この結果をうけて、岸田政権は「我が世の春」とばかりに浮かれているのかと思いきや、勝ったとはいえ、票が取れていないという。勝ったところでも山口4区以外は大接戦で、その山口4区でさえ目標の票数には及ばなかった。解散・総選挙を急かす声もあるが、このままでは議席激減も危ぶまれるという。
投票日の翌日、日本維新の会(以下、維新)の馬場伸幸代表は記者会見を開いた。天下を取ったような表情で、全国の自治体の首長と地方議員が774人になったという集計結果を発表した。改選前勢力の1.5倍の600人が目標だったから、大躍進である。奈良県で大阪以外で初めての公認知事が誕生するなど首長が8人を占めるほか、22人だった東京の地方議員が73人へと急増。ぼくの居住地の区議選でも4人が立候補して3人が当選。この着々と勢力を拡大していく様子を、どううけとめたらよいのだろうか。
自民党は、東京21区の区議選の公認候補295人のうち70人が落選で、党関係者は青ざめたというが、関西圏でも大敗、全国的には改選前よりも1議席上積み。公明党も党勢衰退が顕著だった。候補者1,555人中12人という最多落選数で、総得票数も前回よりも50万票も減らした。
衆参補選で完敗の立憲民主党(以下、立憲)は、地方選挙全体では768人から773人へとわずかに伸ばし、日本共産党は135議席減と改選前議席の1割超減と大きく後退した。統一地方選挙初挑戦のれいわ新選組は82人を擁立、関東圏を中心に47人が当選したが、維新の大躍進には遠く及ばない。
そんな維新とは対象的に、野党第一党の立憲は支持率も低迷したままである。そうしたタイミングで、G7サミット後に衆議院解散・総選挙の噂も聞こえてきていて、立憲内部では、野党第一党の座転落の危機感に襲われているという。
「Samejima Times」(同年5月6日付)では、次のような予測をしている。
立憲の議員たちは、いまのままでは次の衆院選が闘えないと判断すれば、さっさと新たな「野党第一党」へと乗り換えるだろう。そもそも衆議院解散の時点で立憲は空中分解して多くが維新へと雪崩れ込み、衆院選は「自民vs維新」で行われるのではないかという。
勢いに乗る維新の馬場代表は、次の衆院選では全選挙区に候補者を擁立するとともに、野党第一党になることを明言している。立憲を解党に追い込み、その一部を引き入れると同時に野党第一党として全国政党への脱皮をはかろうとしているのだ。
維新はテレビをうまく取り込むことにも長け、いまの勢いなら容易に可能とも思えるが、実際は内実も厳しい。有能な候補者を、各地域にあまねく確保することがいかに難しいことか。
5月9日付『東京新聞』の一面トップの見出しは「入管法改正案 衆院通過」である。リードには「自民、公明、日本維新の会、国民民主各党などの賛成多数により可決された」とある。
国連特別報告者より、国際人権基準未満と指摘を受けるレベルの法案が容易に国会を通っていく。立憲の一部のみならず国民民主も維新に吸収されそうだが、それらが自民、公明とまとまれば、それが当たり前のことになっていく。
東京に軍事同盟であるはずのNATOの事務所開設という報道もあれば、『TIME』誌は岸田首相を表紙に掲げ、「長年の平和主義を捨て去り、自国を真の軍事大国にすることを望んでいる」と紹介している。なんと暗澹たる近未来ではないか。なお、『TIME』誌に対して日本政府が抗議し記事の見出しは変更されたようだが、表紙の文言に変更はない。
折も折、5月12日の参議院本会議において、維新の梅村みずほ議員は入管で死亡したウィシュマさんと支援者を貶める、暴言ともいえる発言を堂々と行った。これが代表質問であったことを考えると、個人の資質以前に党自体に大きな欠陥がありそうだが、それを疑問とも思わない有権者が多数派となっていくのであろうか。
「Samejima Times」の鮫島浩氏が、自分たちの望む本物の野党第一党は維新ではないはずだと訴えてくれているのがせめての救いである。そもそも、自民党と連立を組む可能性のある野党第一党など不要なのだ。
鮫島氏は、新たな野党第一党をつくる気骨と実力のある人材は国会議員にこだわる必要はなく、知事や市長の現職や元職など地方からの政界再編のうねりに期待しているという。辞任したばかりの前明石市長、泉房穂氏のような人物を思い描いているように思われる。最後に次のようにまとめている。
「自民・立憲の二大政党制への失望感が渦巻く現状を目の当たりにして、私はむしろ政界の新たな地殻変動のはじまりを予感している。維新の台頭はその幕開けに過ぎない」
しばらくはトンネルの中を彷徨うことになるが、いずれ明かりが見えてくるとでもいっているようだ。憂鬱な世はまだまだ続く。 (2023/05)
<2023.5.17>
日本維新の会HPより