いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂
第76回:沖縄県民投票をめぐって
2019年2月14日、辺野古米軍基地建設のための埋め立ての賛否を問う、沖縄県民投票が告示された。投票日は2月24日だが、その日は天皇在位30年記念式典も開かれる予定だ。意図的なものかどうかいろいろ考えてしまうのだが、よくわからない。沖縄のひとびとはどう考えているのだろうか。
思い起こせば、2013年4月28日には「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」が開催されたが、1952年の同日はサンフランシスコ平和条約が発効された日であり、奄美・沖縄が日本から切り離され米軍統治下におかれた「屈辱の日」でもあった。沖縄県議会は当然抗議決議を行い、抗議集会には1万人が集まった。
外交評論家の天木直人氏は自身のメルマガに「沖縄県民投票を待ち受けるこれだけ多くの罠」(2019年2月15日付)という記事を掲載し、今回の県民投票の問題点を指摘しているので紹介してみよう。
県民投票の選択肢は埋め立てに「賛成」「反対」の二択だったのが、投票に不参加を表明する自治体があらわれたため、より多くのひとが参加できるように県側が譲歩し、「どちらでもない」を加えての三択になった。
「どちらでもない」という票は「賛成」でも「反対」でもないのは当然で、「反対」にカウントされることはない。つまり票が分散してしまい、「反対」票が圧倒的多数を占めないことには、反対多数ではないと判断されてしまうという。少なくとも、日本政府とアメリカ政府に対して「反対」の通知ができる、「投票資格者総数の4分の1を上回る反対票」が必要となる。昨年9月の沖縄県知事選で玉城デニー氏が獲得した約39万票が、そのまま「反対」票になるなら4分の1を上回るというが、そんなに甘くはない。いま、あの翁長前知事の弔い合戦だったときの熱気はないという。
現在、反対派が投票を呼びかける活動を積極的に行っているのに対して、県政野党の自民党、中立の公明党、日本維新の会は「自主投票」として静観の構えだ。あえて騒ぎ立てず投票率を低く抑え、「反対」派を抑え込む目論見である。
繰り返し報道されているが、県民投票には法的拘束力はないという。しかも、菅義偉[よしひで]官房長官は、告示日の記者会見で、「どういう投票結果でも工事を進めるのか」という記者からの質問に対して「基本的にそういう考えだ」と答えている。どんな結果が出ようが関係ない、民意無視宣言である。有権者の投票意欲を失わせ、投票率を抑えることを意図しての発言であろう。
『東京新聞』(2019年2月18日付)は、共同通信が行った「沖縄世論調査」の結果を大きく報じていた。それによると、「投票に行く」94.0%、「投票に行かない」「たぶん行かない」合わせて4.9%。そして埋め立てに「反対」67.6%、「賛成」15.8%、「どちらでもない」13.1%。さらに政府は「県民投票の結果を尊重するべき」86.3%、「尊重する必要はない」8.8%である。
これから推測すれば、最終的な数字はだいぶ動くことを見越しても投票率は相当高いだろうし、「反対」票が多そうだと思えるのだが、期日前投票が3日間で5万票に達したという報道が入ってきた(「JIJI.COM」同年2月18日付)。先の知事選の冒頭3日間の2.4倍になるという。これがどのように影響するのかわからない。
天木氏は安倍・菅暴政コンビには敵わないと半分白旗をあげているが、その暴政コンビも自然には逆らえないという。つまり現場海底のマヨネーズ状の軟弱地盤が最大のネックとなり辺野古新基地は不可能だと予測する。『日刊ゲンダイ』(同年2月12日付)によれば、国は6万本もの杭を90メートルの最深部まで打ち込む工事を検討しているのだが、そんな工事を可能とする作業船は日本にはないという。
ところで、辺野古新基地は必要ないと明言する米軍元高官があらわれた。『琉球新報』(2018年12月23日付)が報じたものだが、ブッシュ(子)政権で、パウエル国務長官の首席補佐官を務めたローレンス・ウィルカーソン元陸軍大佐がインタビューに応じている。
同氏は、1990年代初頭に海兵隊大学校の責任者をしていた際に冷戦凍結に伴う米国内外の米軍基地再編・閉鎖についての調査研究を分析した経験をもち、現在は海外基地再編・閉鎖連合の主要メンバーで、大統領・国防長官宛に米軍基地閉鎖を求める文書を公表している。
インタビューでは、日本政府が主張する沖縄の海兵隊の「抑止力」について、「もろ刃の剣だ。抑止力の一方で、米軍の沖縄駐留は中国の軍事費を拡大させ、より強力な敵にさせる」と、軍事的緊張を高める要因になると指摘する。また朝鮮半島で有事があったとしても、60万人の韓国軍にとって在沖海兵隊は微少なもので、現地に到着するのは戦闘が終わってからのことになり、「戦略的な理由はない」という。
沖縄に駐留する戦略的な目的があるとすれば、横須賀や三沢など本土の他の米軍基地と同じ意味合いでしかなく、「米国の太平洋地域での国防戦略で本当に重要なのはハワイだけだ」。いまは、気候変動や自然災害の影響が米軍施設に与える損失への懸念が高まっていて、多額な費用を投じてまで海上に滑走路を造ることはばかげていると強調している。
このように米軍の元高官が、沖縄の海兵隊駐留に戦略的な必要性がないと発言するのは異例だという。いったい日本政府はなにを考えているのかと思ってしまうが、住民から反発があろうが、政権に近い企業に大きな仕事を与えることを優先しているのだろう。それが本当に必要なものかどうかはあまり関係ない。おそらく辺野古新基地は永遠に完成しなくともかまわない。工事をつづけることが目的となっているとしか思えないのだ。
話題は逸れるが、韓国の文喜相[ムン・ヒサン]国会議長が、旧日本軍の従軍慰安婦問題について、「天皇による謝罪のひと言で問題が解決する」と述べ、レーダー照射問題や徴用工の問題とタイミングが重なり大騒ぎになっている。これについて、文在寅[ムン・ジェイン]大統領と組んでの計画的なものという興味深い見方もあるが、ここでは深入りしない。ただ本当に天皇の謝罪で解決するのかといえば、それは無理だろう。日本側の問題も大きいからである。
現五輪担当相の桜田義孝氏は2016年1月、慰安婦問題について「職業としての娼婦だった」と発言して騒動となったことがある。この種の発言は、日本の政治家から何度もあったし、今後もあるだろう。韓国は天皇が訪問していない国のひとつだが、天皇が赴いて頭を下げて謝罪したところで、政治家からこういった発言が飛び出せばすべて台無しになる。どうにもならないのだ。
天皇への謝罪要求の報道を聞いたとき、それは沖縄についても必要なことだと思った。まずは、アメリカに対し沖縄の長期占領継続を依頼した昭和天皇のメッセージを反故にしたい旨を納得してもらい、そのうえでの沖縄への謝罪である。天皇は何度も沖縄に出かけていて、沖縄へ寄せる思いは理解できるのだが、この件について触れることはない。退位後でもよいのだが、新憲法下で昭和天皇から発せられたこのメッセージについて、自身の思うところを表明してほしい。それは、アメリカからはじめなくてはならないだろう。
さて2月24日の沖縄県民投票の結果はどうなるのか。日本政府はそれに対してどう対応するのか。沖縄だけの問題ではない。なにがなんでも新基地を造ることに固執する政府に対しての、本土をふくめた全員の行動が問われているのだろう。 (2019/02)
<2019.2.20>
辺野古、大浦湾海域(沖縄県HP「沖縄から伝えたい。米軍基地の話。」より)