いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂
第104回:新型コロナワクチン接種の憂鬱
新型コロナワクチンの接種が、どんどん進められているようだ。大手町の大規模接種センターで打ってきた、6月中旬に予約が取れたなどという話が、身近でも聞こえてくる。しかし、これまで国が積極的に進める政策にはろくなものがなかった。
それに加えて菅義偉[よしひで]首相には、「ワクチンという新しい武器」で対策を講じればオリンピック開催は充分可能とばかり、ワクチン接種をオリンピック開催、支持率浮上、総選挙へと結びつけた思惑が露骨に透けて見えて困惑してしまう。
そういった経験からいえば、とても打つ気にはならないのだが、今回ばかりはちょっと事情が異なる。新聞には「世界で累計20億回突破」などという見出しが見えるし、児玉龍彦氏(東京大学先端科学研究センター名誉教授)、上昌広氏(医療ガバナンス研究所理事長)、渋谷健司氏(相馬市新型コロナウイルスワクチン接種メディカルセンター長、前キングス・カレッジ・ロンドン教授)など、比較的信頼のおける医師、研究者たちも、ワクチン接種は欠かせないとして勧めていて、これで打たないと後ろ指を指されそうな雰囲気でもある。
ネット上で「コロナワクチン『重い副反応が出た』医療従事者が続出…現場からの報告」(「マネー現代」2021年4月24日付)という記事に出会った。新型コロナワクチンの接種は、高齢者、一般向けの前に医療従事者向けに行われたが、2回接種を終えた医療従事者に取材してまとめられた記事で、見過ごしにはできない内容である。
記事では昭和大学横浜市北部病院循環器センター教授、南淵明宏氏に取材している。もちろん2回の接種を終えているが、1回目では何も違和感はなかったという。2度目の接種の翌日の夜から強い脱力感に襲われ、両足、両腕に痛みが走る。その翌日、職場に出たものの仕事にならず教授室でぐったりとして過ごす。食欲はなく、だるさ、微熱が続き、4日目になってようやく快復したという。
「とにかくびっくりしました。倦怠感といえばそれまでなんですが、いままであまり経験したことのなかったヘロヘロ感でした」
素人ではなく、ベテラン医療従事者の感想である。事前にはこういった情報はほとんど伝えられておらず、地元自治体からは3割のひとに発熱があること、体調が悪いと感じたら躊躇なく休みをとるようにと伝えられたのみだったという。
南淵教授は60代で、昨年持病の不整脈のカテーテル治療を受けていたため、またぶり返すのではという不安でいっぱいだったが、どうにか乗り越えられたという。持病をもった高齢者の方は強い副反応に不安になる可能性があるという。
周囲の同僚たちの多くも「きつかった」「病院を休んだ」「仕事にならなかった」という反応だった。また20代、30代の多くは39度、40度くらいの発熱があって、事前に聞いていた「3割が発熱」では収まらないくらいの比率だという。
これら一般の医療関係者が接種を受ける前の今年の2月、国立病院機構などの病院の医師や看護師への「お試し接種」が先行して行われていて、すでに厚労省はその結果を把握していたはずだが、そういった実態は一般の医療関係者にはまったく伝えられていない。さらに、テレビや新聞でも報じられないので、我々も知ることはない。
厚生労働省のHP、「新型コロナワクチンの投与開始初期の重点的調査」(同年4月9日付)には、先行接種を受けた国立病院機構加盟病院などの医療関係者2万人のワクチン接種による副作用について、次のように記されているという。
「2回目接種では接種翌日に頭痛(5割)、全身倦怠感(7割)を自覚した」「2回目接種後の37.5℃以上の発熱(4割)を認めた」(今年4月7日現在の数値)
しかも、厚労省はこれらの2万人に対して「2回目接種翌日の勤務は控えるように勧告」したとしているが、目立たないところにこっそり載せているだけで、医療現場にさえ伝えようとはしていないのだ。
南淵教授は「だまし討ち」のようなものだと表現する。接種を早急に進めたい政府は意図的に隠しているのかもしれず、大手メディアも積極的に伝えることを避けている可能性もあり、政府はもっと事実を伝える努力をしてほしいと語る。
「新聞・テレビの大手メディアは、政府にとって都合の悪いことを極力報道しない傾向があるので、今後の混乱が本当に心配です」
南淵教授は、それでもコロナワクチンは接種すべきだという。2回目後の強い副反応が出るのも3日間で、安静にしていれば治療も必要なく快復する。そのことを自覚し、準備をしたうえで接種に臨んでほしいという。
同じ副反応でも、死亡例もけっして少なくはない。
厚生労働省は5月26日に開いた新型コロナウイルスについての専門家部会で、5月21日までにファイザーのワクチンの接種を受けた約601万6,200人のうち、25歳から102歳の男女85人の死亡の確認を報告した。このうちの78%が65歳以上の高齢者で、出血性の脳卒中や心不全などを起こしていたという。コロナワクチンとの因果関係については、情報不足などを理由に、「評価できない」か「評価中」としている。現時点では接種体制に影響を与えるような懸念はないとして接種をすすめていくという(「NHK NEWS WEB」同年5月26日付)。
およそ7万人にひとりの割合になるが、無視してよい数値ではない。誰がそのひとりになるか打ってみなくてはわからない。上昌広氏は、若いひとが比較的早い段階で亡くなっていることは注目すべきで、大柄な米国人と小柄な日本人が同容量のワクチンを接種していることにまったく問題がないのかどうか、そのリスクについて国は警告すべきではないかと語っている(『日刊ゲンダイDIGITAL』同年5月29日付)。
さて、我が家はどうしたものかと思うのだが、カミさんは心臓に疾患を抱えていて、総合病院で精密検査を3回受けているが、原因は不明のまま諦めてしまった。ワクチン接種について、かかりつけ医は問題ないでしょうと言っているが、なんら確証のある話ではない。まるでロシアン・ルーレットのようでもある。
こんなことを考えあぐねていたところ、すでに多くのオリンピック・パラリンピック関係者たちの入国が始まっているという(『東京新聞』同年6月8日付)。記事によれば、4〜5月に入国した関係者の約85%にあたる約1,700人が、水際対策として行われている隔離措置が免除される「特例入国」していて、なかには陽性者も出ていた。
こういう関係者は、緊急事態宣言下の東京で自由に外食し、夜は歌舞伎町に繰り出し、各地に旅行にも出かけているようだ。6月に入り、経営が苦しくなった飲食店では酒類提供を再開する店も増えている。これでは、関係者を封じ込めるはずの「バブル方式」など、すでに破綻しているではないか。
これから目に見えて感染者が増えていく可能性もあるし、インド型変異株の感染爆発の噂もある。自分以外のすべてのひとがワクチンを接種してくれればよいのだが、それはさすがに無理というもの。やはり、ワクチンを打っての自己防衛しかないようだ。 (2021/06)
<2021.6.8>
ファイザー社HPより