いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂
第99回:馬毛島買収、その後
昨年の1月は「馬毛島買収をめぐって」というテーマで書いているが、昨年秋から年末にかけて新たな動きがあったので、ここでもう一度取り上げてみたい。
鹿児島県種子島の西12キロにある馬毛島は、西之表市に属す小さな無人島である。この島に、現在厚木にある米空母艦載機の陸上着陸訓練拠点(FCLP)の移転が予定されていて、それに関連して自衛隊基地の整備も計画されている。2本の滑走路のほかに格納庫、火薬庫などの施設を整備して自衛隊員150〜200名が勤務する予定で、F35B戦闘機や輸送機オスプレイの訓練も想定されている。
昨年時点では、防衛省側の評価額45億円に対して、その4倍の160億円で、2019年11月に地権者である民間企業と売買契約書を交わしたと記した。その結果、国はすでに仮登記も含めて島の99%を取得したという。
困惑したのは、要塞のような島を抱え込むことになった地元の西之表市である。市長選では移転反対で当選しながらも、その後は態度を曖昧にしていた八坂俊輔市長も、2020年10月になって、FCLP移転や自衛隊基地建設計画に反対を表明するとともに、8月に防衛省に提出した質問状への回答も「不明点が払拭されていない」と批判した。
これに対し鹿児島県の塩田康一知事は、「市長が同意できない理由、住民の考えや関係自治体の意見、防衛相の話を聞き、県としての考えを整理する」と述べるにとどめていたのだが、11月末になって、防衛省に対して馬毛島周辺で行われる海上ボーリング調査を許可した。そしてその1カ月後には重機を積んだ船による調査が開始され、今年の5月まで続けられる予定である。
西之表市側は「漁業環境に影響が生じる可能性を否定できない」との意見書を防衛省に提出、地元の漁師16人が鹿児島地裁に取り消しを求めて訴えるなど、動きが慌ただしい年末となった。
昨年の原稿で売買契約書を交わしたと記した部分は、「具体的な内容は購入手続きに支障を及ぼす恐れがあるため、答えを控える」とする政府答弁書が正確なようだ(『しんぶん赤旗』電子版、2019年12月18日付)。ただ、東京新聞の半田滋氏は契約書を交わしたと書いていて、すっきりしない。
半田氏は「アメリカの圧力に負けた防衛省は大金をドブに捨て…『馬毛島問題』の深層」(「現代ビジネス」2020年8月14日付)のなかで、記者会見に応じた河野太郎防衛大臣(当時)が、160億円という金額の積算根拠を問われ、「適正な額で行っていくつもり。正式な契約の時に、しっかり説明する」と答えたとしている。未契約の土地が残っているらしく、その契約を済ませて正式な契約ということのようだ。
契約交渉の際、馬毛島の99.6%を所有する民間企業、タストン・エアポート社(本社・東京)は、島の「4万坪(0.12平方キロメートル)の土地を持ち続けたい」と主張したという。防衛省側は「整備工事に関わる意図」とみて応じなかったが、首相官邸の判断で要求を飲み、その部分は整備後に防衛省が買い取ることで折り合いをつけたという。
また当初の45億円が160億円へ増額された根拠は、タストン社が整備した2本の滑走路の整備費用のようだが、防衛省ではその滑走路を使わずに新たに2本の滑走路を整備するという。こうしたタストン社側の言い分を認めたのであれば、それはまったくの無駄金になるということだ。
ただ、これはあくまでも表向きの話にすぎないようだ。『週刊新潮』(2020年11月19日号、26日号)が報じている。
所有者タストン社からの馬毛島の土地買収には、リッチ・ハーベスト社という不動産会社が仲介に入っているが、その仲介手数料の支払いをめぐって民事裁判が行われている。その証拠資料としてリッチ社から提出された面談記録には、当時内閣府特命担当大臣だった加藤勝信氏(現官房長官)本人や秘書との面談が記録されている。とくに、売買金額が45億円から160億円に引き上げられた同時期、加藤氏や泉洋人内閣総理大臣補佐官はリッチ社と何度も面談を重ねている。政府関係者によると「リッチ社と加藤さんの義父、加藤六月元農水相は古くからの親しい間柄で、それが勝信氏に引き継がれていると聞いています」とのことだが、リッチ社は加藤氏を利用して売買交渉をまとめたとみられる。
タストン・エアポート社は変更前の社名を立石建設といい、リッチ社からのその頃の多額の負債の支払いのために馬毛島が利用されたようだ。「馬毛島を400億円で国に売れ。閣僚の某に話はつけてあるから」と、リッチ社から迫られたともいう。リッチ社と防衛省との交渉の末、最終的に160億円まで減額されているが、それでもリッチ社は高利の利息を含めて全額回収できたことになり、5億円もの利益を得たことになるという。もちろん、これは税金である。
加藤氏の事務所では「ご指摘の土地は、防衛省が交渉に当たり、売買に至ったものと承知しております。また、パーティー券等の政治資金は法令に従い適正に処理し、その収支を報告しているところです」と答えているが、とても言葉どおりには受け取れるものではない。防衛省よりも加藤氏や泉氏との面談のほうが多かったことは面談記録から明らかで、しかも防衛省が出てくるのは売買仮契約後だという。
裁判に提出されている証拠資料には、加藤氏や泉氏のほかに沖縄県を地盤とする下地幹郎代議士、菅義偉官房長官(当時)や防衛官僚も登場している。どこか、森友、加計問題に通ずるように感じられるのだが、いずれ大きな問題になるのではないだろうか。 (2021/01)
<2021.1.9>
防衛省HPより
同上