いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂

第80回:負の遺産の行方

 2019年5月24日防衛省は、佐賀空港(佐賀市)に配備される予定だった陸上自衛隊のオスプレイV-22について、陸上自衛隊木更津駐屯地(千葉県)に全機暫定配備する方針を木更津市側に伝えた。
 陸上自衛隊は2021年までに導入予定のオスプレイ17機を佐賀空港に配備し、南西諸島防衛のため相浦駐屯地(長崎県佐世保市)に新設した上陸作戦部隊の輸送に用いる計画だった。木更津駐屯地はオスプレイの整備拠点になっているが、運用に必要な滑走路や格納庫があることや、相浦駐屯地まで給油なしで飛行できることから、数年間にわたり17機全機が暫定配備されるという。なお、木更津駐屯地をオスプレイの整備拠点とするにあたって、2018年に防衛省と千葉県・木更津市は覚え書きを交わし、すでに運用が始まっている。
 佐賀県側は佐賀空港でのオスプレイ受け入れを表明しているのだが、地元漁協や住民たちは反対している。国は使用条件として20年間で100億円の着陸料を県に支払い、県側はそれを基に漁業振興基金をつくるとしているが、漁業者は「もしオスプレイで海の環境が悪化して漁業に影響が出たら、取り返しがつかない」と主張している。一方、暫定配備となる木更津市側も、恒久的な配備先になってしまうことを危惧し、住民グループによる反対運動が続いている。
 沖縄国際大学の前泊博盛教授は「木更津でのオスプレイの機体整備は、1機数カ月と言われていたのが実際には2年近くかかっている。『暫定』と言いながらも、結局長期化する」との見通しを述べている(『東京新聞』2019年5月30日付)。

 秋田県と山口県にはイージス・アショアの配備が予定されている。とくに秋田市の陸上自衛隊新屋[あらや]演習場の場合は、ずさんな調査や、住民説明会の際に防衛省職員の居眠りが発覚したため、最近とくに新聞・テレビで話題にのぼることが多い。
 秋田県知事、秋田市長とも保守寄りで、当初より明確に反対することはなかったが、さすがに今回ばかりは怒り心頭の様子である。当初は「国のやることだから…」と諦めムード満載だった佐竹敬久[のりひさ]知事が国との協議を白紙に戻すことを表明したため、菅義偉[よしひで]官房長官や岩屋毅防衛大臣が立ち替わり県庁を訪れたものの、当分協議に応じる様子はみられない。穂積志[もとむ]秋田市長も、独自に検証チームを発足させて防衛省の調査結果の検証にあたるようだ。
 一方の候補地山口県の陸上自衛隊むつみ演習場は、安倍晋三首相の地元である。知事は賛否を表明することなく検証チームによる作業をすすめるというが、阿武町の花田憲彦町長は、自民党員ながら当初より明確に反対表明をしていた。ここにきて防衛省のずさんな調査が山口県でも発覚したため、より態度を硬化させることになるのではなかろうか。

 ところで、沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設工事は、県民投票の結果72%の県民が反対を表明したにもかかわらず、これまでどおり建設続行である。それも有無を言わさずの強行である。佐賀空港のオスプレイ配備については、県による地元漁協の説得を国は一歩引いて見守っているところだ。千葉県木更津駐屯地でのオスプレイ暫定配備について、木更津市側は回答を保留しているが、来年3月までに5機、最終的には17機配備される計画である。将来的に佐賀空港へ移されたとしても、今後とも木更津駐屯地がオスプレイの整備拠点となっていくことに変わりはないようだ。
 国の対応について考えてみたい。沖縄県と佐賀県を比べてみると、佐賀県については、国は沖縄県に対してほど強硬ではないように感じられる。それは、安倍政権による沖縄差別といえなくもないが、佐賀県知事が配備に同意していることもあって、どう理解するかが難しい。
 いろいろ問題の多いイージス・アショアの配備について、国は予定どおりにすすめるつもりである。防衛省側に不手際があったためいまのところ低姿勢だが、今後どう動いていくかまったく読めない状態だ。ただ、当初の秋田県知事のように「国の専権事項だから…」などと言っていては、配備を誘導する結果になってしまう。ひろく住民の意見を聞いたうえで判断を下してほしいところだが、佐竹知事は県民の意識調査は行わない方針を示しているところが気にかかる。

 イージス・アショアの秋田配備に関しては、ロシアのプーチン大統領の強い姿勢に期待したい。プーチンという政治家をどう評価するかという問題は脇において、この1点において彼に期待している。
 5月30日に東京で開催された日本、ロシア両国の外務・防衛閣僚協議において、ロシア側は、日本のイージス・アショア導入計画への懸念を示していたが、これは初めてのことではなく、昨年7月にモスクワで開催された同協議でもあからさまに難色を示していた。
 これは、ほとんど行き詰まっている北方領土交渉にも少なからず影響がある。ロシア側が懸念しているのは、北方領土返還後、そこに米軍基地がつくられることだ。それはまさに、鼻先に銃口を突きつけられるようなものである。この懸念は2001年3月の森喜朗、プーチン会談でも伝えられていたことで、安倍首相も知らないはずはない(『日経新聞』電子版、同年5月11日付)。そんなロシア側の懸念を承知していながら、日本側は約20年間、その懸念を払拭できるような提示をできていない。
 そこに、さらに懸念を増幅させるイージス・アショアの秋田配備である。ここで日ロ関係をより悪化させては、北方領土の2島返還も日ロ平和条約もすべて吹っ飛ぶ。この6月29日、安倍首相とプーチン大統領の会談が行われるが、そこでまた新たなひと押しがあるかどうか。プーチン大統領のさらなる抵抗を期待したいところだ。

 オスプレイにしろ、イージス・アショアにしろ、最終的にどうなるかわからないが、少なくとも辺野古や高江のような事態は許されないし、辺野古や高江も早々に元の状態に戻してもらいたいものだ。
 辺野古に関していえば、日本政府以上にアメリカ側が厳しい見方をしているようだ。6月14日、アメリカの議会調査局が日米関係の新たな報告書を公表している。それによれば、沖縄県民の72%が反対を表明した辺野古の新基地建設について、「日本政府と沖縄を何十年にもわたって分裂させてきた」と、これまでの経緯を詳しく紹介したのち、「移設問題は引き続き、険しい政治課題に直面するだろう」と分析している(『琉球新報』同年6月16日付)。県民の反対意見に加え軟弱地盤の問題もあるが、最終的に日本政府は断念せざるを得ない状況に追い込まれそうに思える。おそらくアメリカ側も、同様の見方であろう。

 ひと言付け加えておきたいのだが、オスプレイにしろ、イージス・アショアにしろ、本来防衛省の導入計画にはなかったもので、不要なものでしかない。安倍首相がトランプ大統領の要求を受け入れ、購入を決定したものだ。そんなものを置かれて迷惑を被るのは配備地域の住民たちである。行き場もなく使いもしないものなど、負の遺産として、東京近在の自衛隊駐屯地の隅にでもそっと置いておけばよいのではないか。ぼくの自宅近くにも陸上自衛隊駐屯地があるが、そこでもやむを得ないと思う。 (2019/06)
  
<2019.6.21> 

オスプレイV-22(防衛省HPより)

イージス・アショア(防衛省HPより)

那須塩原市上空を通過していく謎の飛行物体。オスプレイ?(2018年9月19日)

いま、思うこと

第1〜10回LinkIcon 
 第1回:反原発メモ
 第2回:壊れゆくもの
 第3回:おしりの気持ち。
 第4回:ミスター・ボージャングル Mr.Bojangles
 第5回:病、そして生きること
 第6回:沖縄を思う
 第7回:原発ゼロは可能か?
 第8回:ぼくの日本国憲法メモ ①
 第9回:2013年7月4日、JR福島駅駅前広場にて
 第10回:ぼくの日本国憲法メモ ②

  
第11〜20回LinkIcon
 第11回:福島第一原発、高濃度汚染水流出をめぐって
 第12回:黎明期の近代オリンピック
 第13回:お沖縄県国頭郡東村高江
 第14回:戦争のつくりかた
 第15回:靖国参拝をめぐって
 第16回:東京都知事選挙、脱原発派の分裂
 第17回:沖縄の闘い

 第18回:あの日から3年過ぎて
 第19回:東京は本当に安全か?
 第20回:奮闘する名護市長

第21〜30回
LinkIcon
 第21回:民主主義が生きる小さな町
 第22回:書き換えられる歴史
 第23回:「ねじれ」解消の果てに
 第24回:琉球処分・沖縄戦再び
 第25回:鎮霊社のこと
 第26回:辺野古、その後
 第27回:あの「トモダチ」は、いま
 第28回:翁長知事、承認撤回宣言を!
 第29回:「みっともない憲法」を守る
 第30回:沖縄よどこへ行く
  
第31〜40回LinkIcon
 第31回:生涯一裁判官
 第32回:IAEA最終報告書
 第33回:安倍政権と言論の自由
 第34回:戦後70年全国調査に思う
 第35回:世界は見ている──日本の歩む道
 第36回:自己決定権? 先住民族?
 第37回:イヤな動き
 第38回:外務省沖縄出張事務所と沖縄大使
 第39回:原発の行方
 第40回:戦争反対のひと

第41〜50回  LinkIcon
 第41回:寺離れ
 第42回:もうひとつの「日本死ね!」 
 第43回:表現の自由、国連特別報告者の公式訪問
 第44回G7とオバマ大統領の広島訪問の陰で
 第45回:バーニー・サンダース氏の闘い 
 第46回:『帰ってきたヒトラー』
 第47回:沖縄の抵抗は、まだつづく 
 第48回:怖いものなしの安倍政権
 第49回:権力に狙われたふたり 
 第50回:入れ替えられた9条の提案者 
 第51~60LinkIcon
    第51回:ゲームは終わり
 第52回:原発事故の教訓
 第53回:まだ続く沖縄の闘い 
 第54回:那須岳の雪崩事故について
 第55回:沖縄の平和主義
 第56回:国連から心配される日本
 第57回:人権と司法
 第58回:朝鮮学校をめぐって
 第59回:沖縄とニッポン
 第60回:衆議院議員選挙の陰で

第61回:幻想としての核LinkIcon 

第62回:慰安婦像をめぐる愚LinkIcon

第63回:沖縄と基地の島グアムLinkIcon

第64回:本当に築地市場を移転させるのか?LinkIcon

第65回:放射能汚染と付き合うLinkIcon 

第66回:軍事基地化すすむ日本列島LinkIcon 

第67回:再生可能エネルギーの行方LinkIcon 

第68回:活断層と辺野古新基地LinkIcon 

第69回:防災より武器の安倍政権LinkIcon 

第70回:潮待ち茶屋LinkIcon 

第71回:日米地位協定と沖縄県知事選挙LinkIcon 

第72回:沖縄県知事選挙を終えてLinkIcon 

第73回:築地へ帰ろう!LinkIcon 

第74回:辺野古を守れ!LinkIcon 

第75回:豊洲市場の新たな疑惑LinkIcon 

第76回:沖縄県民投票をめぐってLinkIcon 

第77回:豊洲市場、その後LinkIcon

第78回:元号騒ぎのなかでLinkIcon 

第79回:安全には自信のない日本産食品LinkIcon 

第80回:負の遺産の行方LinkIcon 

第81回:外交の安倍!?LinkIcon 

第82回:「2020年 東京五輪・パラリンピック」中止勧告LinkIcon 

第83回:韓国に100%の理LinkIcon 

第84回:昭和天皇「拝謁記」をめぐってLinkIcon 

第85回:濁流に思うLinkIcon 

第86回:地球温暖化をめぐってLinkIcon 

第87回:馬毛島買収をめぐってLinkIcon 

第88回:原発と裁判官LinkIcon 

第89回:新型コロナウイルスをめぐってLinkIcon 

第90回:動きはじめた検察LinkIcon 

第91回:検察庁法改正案をめぐってLinkIcon 

第92回:Black Lives Matter運動をめぐってLinkIcon 

第93回:検察の裏切りLinkIcon 

第94回:沖縄を襲った新型コロナウイルスLinkIcon 

第95回:和歌山モデルLinkIcon 

第96回:「グループインタビュー」の異様さLinkIcon 

第97回:菅政権と沖縄LinkIcon 

第98回:北海道旭川市、吉田病院LinkIcon 

第99回:馬毛島買収、その後LinkIcon 

  

第100回:殺してはいけなかった!LinkIcon 

第101回:地震と原発LinkIcon

第102回:原発ゼロの夢LinkIcon 

第103回:新型コロナワクチンLinkIcon 

第104回:新型コロナワクチン接種の憂鬱LinkIcon 

第105回:さらば! Dirty OlympicsLinkIcon 

第106回:リニア中央新幹線LinkIcon

第107回:新型コロナウイルスをめぐってLinkIcon 

第108回:当たり前の政治LinkIcon 

第109回:中国をめぐってLinkIcon 

第110回:したたかな外交LinkIcon

第111回:「認諾」とは?LinkIcon 

第112回:「佐渡島の金山」、世界文化遺産へ推薦書提出LinkIcon

第113回:悲痛なウクライナ市民LinkIcon 

第114回:揺れ動く世界LinkIcon 

第115回:老いるLinkIcon

第116回:マハティール・インタビューLinkIcon 

第117回:安倍晋三氏の死をめぐってLinkIcon

第118回:ペロシ下院議長 訪台をめぐってLinkIcon 

第119回:ウクライナ戦争をめぐってLinkIcon 

第120回:台湾有事をめぐってLinkIcon 

第121回:マイナンバーカードをめぐってLinkIcon 

第122回:戦争の時代へLinkIcon

第123回:ウクライナ、そして日本LinkIcon 

第124回:世襲政治家天国LinkIcon 

第125回:原発回帰へLinkIcon 

第126回:沖縄県の自主外交LinkIcon 

第127回:衆参補選・統一地方選挙LinkIcon 

第128回:南鳥島案の行方LinkIcon 

第129回:かつて死刑廃止国だった日本LinkIcon 

第130回:使用済み核燃料はどこへ?LinkIcon 

第131回:ALPS処理水の海洋放出騒ぎに思うLinkIcon 

第132回:ウクライナ支援疲れLinkIcon 

第133回:辺野古の行方LinkIcon 

第134回:ドイツの苦悩LinkIcon 

第135回:能登半島地震と原発LinkIcon 

第136回:朝鮮人労働者追悼碑撤去LinkIcon 

第137回:終わりのみえない戦争LinkIcon

第138回:リニア中央新幹線と川勝騒動LinkIcon 

第139回:ある誤認逮捕LinkIcon 

第140回:日本最西端の島からLinkIcon 

第141回:隠された米兵性的暴行事件LinkIcon 

第142回:親ユダヤと正義LinkIcon 

第143回:ベラルーシの日本人スパイLinkIcon 

第144回:「ハイドパーク覚書」をめぐってLinkIcon

第145回:鼻をつまんで1票LinkIcon

工藤茂(くどう・しげる)

1952年秋田県生まれ。
フリーランス編集者。
15歳より50歳ごろまで、山登りに親しむ。ときおりインターネットサイト「三好まき子の山の文庫」に執筆しているが、このところサボり気味。

工藤茂さんの<ある日の「山日記」から>が読めます。LinkIcon