いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂

第150回:企業・団体献金廃止へ

 3月中旬のことである。石破茂首相が、会食した1年生議員15人の各事務所へ、10万円分の商品券を配っていたことが明らかになった。これは政治資金規正法に抵触する恐れがあるため、連日大きく報道された。
 当初はメディアも国会も、石破首相個人の問題として追及していたが、時間をおかずに岸田文雄前首相も同様のことを行っていたことが報じられ、さらには歴代首相の慣例だった疑いが濃厚となっていった。
 
 「総理の食事会の10万円の商品券、昔は商品券ではなく総理に同席する官房副長官がキャッシュで10万円渡していた」(文化放送「くにまる食堂」2025年3月26日)
 これは、元外務省主任分析官だった佐藤優氏がラジオ番組で話した内容がXに掲載されたもので、商品券に限らないということである。
 元通産省・経産省の官僚だった古賀茂明氏が「歴代首相も会食で土産…自民党はずっと『金だけの政党』だった」(『AERA dot.』同年3月25日付)という記事で、自民党の金の問題について記しているので参考にさせてもらった。
 10万円の商品券について、古賀氏は慣例だったとは言っていない。ただ「昔から多くの自民党政治家と交流を持った私から見れば、これは全く驚きではない」と記している。佐藤氏と同様、官僚たちは自民党政治家のそういう姿を少なからず目にしてきているのだ。
 「自民党というのはそういう政党なのだ。お金が潤滑油。上に立つ者は下の者にお金を配るのが当たり前。下の者はパーティー券販売マシンとなって資金稼ぎに貢献することが当たり前。それができない者は爪弾き。それが自民党という組織の掟なのである」
 さらに、そのお金は企業や団体による巨額の献金である。何の見返りもなく献金する企業はなく、その構造は大きく見れば贈収賄だとまで古賀氏は言い切る。その次が重要だ。
 「政策決定の一件一件は、個別の献金とリンクしているわけではなく、また長年の実績を重ねることで、全て阿吽の呼吸で行われる体制ができているため、立件されることはまずない。税も予算も、財務省はじめ各省庁が全てお膳立てすることで、議員は手を汚すことなく、あたかも政策論で動いているかのような体裁が保たれる仕組みができている」
 薄々そのような雰囲気を感じてはいたが、それを明確に記してくれた。それにしても、これを読んで腹が立たない者はいないだろう。とくに自民党支持者はどうであろうか。このような仕組みは、たとえ立憲民主党が一時的に政権をとったところで可能なものではない。数十年という長期にわたって政権を担うことで可能になってくる。
 再び古賀氏の記事からの主要部分。
 金の重要性を知っている自民党は、与党でいることの重要性をよく理解している。金のしがらみのない野党は、ひとたび問題が起きると簡単にバラバラになってしまう。自民党とは結局金だけの政党だった。政策を掲げてはいたが、それは表面だけ。中身は空洞の政党、「虚党」だったという。
 無論、そんな自民党に政権を担わせつづけるわけにはいかない。選挙で野に追いやるだけでは、いずれ金の力で復活する可能性もある。つまるところ消滅させるしかないのだが、その方法はただひとつ。原資となっている企業・団体献金の廃止しかない。
 以上が古賀氏の論旨だ。
 
 そこで、命綱である企業・団体献金を守るために、自民党政治改革本部事務局長の小泉進次郎氏は吠えた(『日刊ゲンダイ DIGITAL』同年3月31日付)。
 「自民党の弱体化を狙った作戦みたいなものだ。そういったことをやっていくと、次は野党の資金源を断とうと泥仕合になっていく」
 それに対し、共産党の塩川鉄也国対委員長からは「反省そのものがない」、れいわ新選組の高井崇志幹事長からは「自民党の組織ぐるみの犯罪ですよ」と当然のように指摘されたが、はたして理解できたのであろうか。
 確かに小泉氏の指摘のように、企業・団体献金廃止によって、自民党はいまの状況からは弱体化するかもしれないが、それが正当な位置であり、他の政党と同じ位置に立つことになるのだ。素直な頭で考えれば理解できることも、自民党のなかに長くいると思考回路が狂ってしまうようだ。
 
 『しんぶん赤旗』日曜版(同年3月30日付)には「企業献金 シラスでクジラ」という法人三税(法人税・法人住民税・法人事業税)の優遇に関しての記事があった。
 「『海老で鯛を釣る』ということわざがあるけれど、これは『シラスでクジラを釣る』ようなものだ。大企業が献金をやめないのは、費用対効果がいいからだよ」
 ある自民党関係者の言葉だというから、確信犯である。
 トヨタ自動車は2023年、自民党の政治資金団体「国民政治協会」に5,000万円を献金し、同年の法人三税の減税の恩恵は4,145億円で、その献金効果は8,300倍になるという。他の大企業も同様に2,000〜4,000万円を献金、その見返りに20社で1兆円を超す減税の恩恵を受けているという。まさに体のよい賄賂である。
 
 冒頭部分で、商品券配布は慣例の疑いが濃厚と記したが、おそらくその慣例の一連の流れには原資まで含まれていたのではあるまいか。
 石破首相は、商品券の原資はポケットマネーと何度も強調していたが、「それを証明するのは難しい」と歯切れの悪い対応をしていた。
 ポケットマネーで150万円といえば多くは銀行からの出金で、タンス預金の場合もなくはない程度であろう。銀行からの出金は証明できないことはない。タンス預金ならそのように答えればよいのだが、そうはしなかった。となると官房機密費と疑われてもやむを得まい。官房機密費からの出金を含めて慣例だったと推測できる。
 2000年以降の自民党政権で官房長官を務めた人物が、官房機密費から国政選挙の候補者に陣中見舞を渡していたことを認めたことがあった(『中國新聞デジタル』2024年5月10日付)。
 国政のために使うべき官房機密費を、自民党のためだけに支出していたという大きな問題だが、大手メディアによる後追い報道がなく不思議に感じたものである。支出先非公開が認められているとはいえ、あまりにも傲慢ではないか。おそらく今後も堂々と官房機密費から自民党へと金が流れるのであろうが、そんな自民党は早々に解体させなくてはならない。企業・団体献金は廃止しかない。 (2025/04)



 
<2025.4.15> 

自由民主党本部(2024年9月15日撮影/「Wikipedia」より)

自由民主党結党大会(1955年11月15日撮影/「Wikipedia」より)

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工藤茂(くどう・しげる)

1952年秋田県生まれ。
フリーランス編集者。
15歳より50歳ごろまで、山登りに親しむ。ときおりインターネットサイト「三好まき子の山の文庫」に執筆しているが、このところサボり気味。

工藤茂さんの<ある日の「山日記」から>が読めます。LinkIcon