いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂
第145回:鼻をつまんで1票
11月11日、衆参両院本会議で首相指名選挙が行われたが、国民民主党の玉木雄一郎代表は以前より、決選投票の場合は自民党でも立憲民主党でもなく、「玉木と書きます」と公言していた。
この発言について、NGОピースボート共同代表の畠山澄子氏は、11月10日のテレビの報道番組で次のように発言したという(「日刊スポーツ」web版、2024年11月11日付)。
「私、それは、国政選挙の政党の党首を担う政治家としてあるまじき発言じゃないかなと思っていて……」
さらに続けて。
「私たち有権者は、民主主義のプロセスとして必要だから、これにコミットしましょうと。その中で、1票の格差の話とか、白票をなるべく減らしていこうとか、投票を増やして投票率上げていこうというのをやっていた中で、そのプロセスの最後の最後で、そこを無駄にするような、事実上無効票になると分かっている票を投じたり、結果としては自民党に利するような行動をするというのは、私は最終的にはそれってパフォーマンスじゃないかなって思っていますし、受け入れたくないなと思っています」
恐らく正論であろう。確かに、貴重な1票を無駄にすることなく、誰か(どこか)に投ずるべきであろう。が、現実的には難しい場合もあるように思う。
さて11月11日、特別国会が召集され、衆参両院本会議にてそれぞれ首相指名選挙が行われた。とくに衆議院では与党が過半数を割るなかでの投票のため注目された。
衆議院での1回目は、石破茂総理大臣が221票、野田佳彦立憲民主党代表が151票で、ほかに日本維新の会(38票)、国民民主党(28票)、れいわ新選組(9票)、共産党(8票)、参政党(3票)、日本保守党(3票)が各党首に、衆議院会派「有志の会」(4票)が代表に投じ、誰も過半数の233票に届かないため、30年ぶりという決選投票となった。
上位2者による決選投票では、石破氏が221票、野田氏が160票、無効票が84票にのぼり、石破氏はここでも過半数に届かなかった。自民・公明が過半数を占める参議院では石破氏が過半数(125票)を17票上回る142票を獲得していて、同氏が首相に指名された。
衆議院議長が投票結果発表に先立ち、ふたり以外の氏名を記載した無効票が84票あったことを告げたところ、議場内がざわついたという。その場で内訳の発表はなかったが、1回目での日本維新の会、国民民主党、れいわ新選組、参政党、日本保守党、「有志の会」の合計が85票で、決選投票で「有志の会」の1名が野田氏に投票していて残りが84票で、無効票と一致する。
ここで気になるのが共産党である。立憲民主党代表の野田氏に「共産党と同じ政権を担うことはできない」と切り捨てられていたにもかかわらず、無効票を投じなかった。政治改革推進で一致点があるとして野田氏への投票を事前に表明していたが、律儀にもそのとおりに行動したのである。
『しんぶん 赤旗』web版(同年11月12日付)は、日本維新の会、国民民主党は自党代表に、れいわ新選組は自党議員にそれぞれ無効票を投じたとし、これら各党は「結果的に石破政権の延命に手を貸した」と、畠山氏と同様に非難した。
これを、立憲民主党よりも自民党のほうがよいと思った野党議員が84人もいたことになると言い換えたコメントをポストで目にしたが、それは必ずしもそうとはならないだろう。
「鼻をつまんで1票」という言葉がある。投票の際に、自分の支持する政党の候補者がいない場合、当選させたくない候補者(あるいは政党)の対立候補へ投票することを指す。先の共産党の議員たちが鼻をつまんで野田氏の名前を記したものかどうかは推察するしかない。
日本維新の会、国民民主党、れいわ新選組の議員たちは、自らの心に従った投票行動をとった。仮にぼくに投票権があったとしても同様だったと思う。
立憲民主党は野田氏が代表になって、より保守色を強めてしまった。つまり石破氏と野田氏では色合いが近すぎて選択肢にならない。選択肢がなければ棄権や白票もやむを得ないだろうと思う。ただ玉木氏とぼくでは立場が異なり、おのずと理由も違ってくるはずだが、ここではそこまでは触れない。
もし仮に2回目の投票で、自民党・公明党以外のすべての政党の議員が鼻をつまんで野田氏に投票し、野党による新たな連立政権が誕生したとしても、憲法改正、防衛費増額、紙の保険証廃止、企業団体献金の問題など、容易に方向が定まるとは思えないのだ。そういえば首相指名選挙の数日前、ドイツの3党連立政権の崩壊が報じられたばかりだった。
ところで、いつも「鼻をつまんで」ばかり投票していると、健康にははなはだよくないらしい。さらにそれには、生涯に可能な回数まであるという(「AERA dot.」同年10月29日付)。
著作家、社会活動家の北原みのり氏は、10月27日の衆議院議員選挙を棄権したというが、34年の有権者人生初めてのことだという。なんでも、生涯で決められている鼻をつまんで投票する回数の限界を超えてしまい、「鼻をつまんで」という投票姿勢にアレルギー反応が現れてきたという。
北原氏は年齢とともに、それまで大好きだった牛乳を飲むと吐くようになり、やがて牛乳を見ただけで吐き気を催すようになったという。これは生涯の牛乳値を超えたためと自身で判断しているが、「鼻をつまんで1票」もこれと同様なのだ。
自分の心の代弁者となるような候補者など本当にいるのかという不信に蓋をして、無理やり鼻をつまんでの投票を長い間繰り返してきた結果、自分自身がしっぺ返しを受けたのではないかという。具体的に吐き気を催したとは記していないが、先に記したようにアレルギー反応が現れたというのだ。話の真偽はともかくとして、次のようにまとめている。
やはり自分の声の代表者と信じられるような候補者を、きちんとした政治家に育てていくというのが政治との正しい関わり方かもしれない。「政治家の質」の問題も大きいという。
誰かのXで見かけたが、選挙をへるごとに政治が劣化していくのがつらいと嘆いていた。まさに実感である。 (2024/11)
<2024.11.16>
TBSテレビ「サンデーモーニング」(2024年11月10日放映)出演中の畠山澄子氏(「PEACE BOAT」HPより)