いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂
第130回:使用済み核燃料はどこへ?
『東京新聞』(2023年5月20日付)で「МOX 初の海外再処理へ」という見出しを目にした。
МOXとはもちろんМOX燃料のこと。プルサーマル炉と呼ばれるタイプの原子炉で使用されるもので、国内には関西電力高浜原発3、4号機(福井県)、四国電力伊方原発3号機(愛媛県)、九州電力玄海原発3号機(佐賀県)の4基がある。
プルサーマル炉で使用した使用済みМOX燃料を、実績のあるフランスで再処理をしてプルトニウムを取り出し、再びМOX燃料に加工して日本へ送り燃料として使用するための実証研究を行うという。政府は2030年代後半をめどに、その再処理技術を確立させることを目指すというのが当該記事の趣旨であった。
調べてみたところ、使用済みМOX燃料は使用済みウラン燃料に比べ、発熱量が大きく取り扱いが難しいという。国内では使用済みМOX燃料の取り出しさえ2020年1月に初めて行われたばかりで、その再処理など夢のような話。フランスでは実績があるとはいえまだ研究レベルという。本当に実現性のある計画かどうか疑問だ。
ついでになるが、現在青森県六ケ所村に再処理工場、МOX燃料工場を建設中だが、当初より使用済みМOX燃料の再処理までは想定されていない施設である。
20日ほどが過ぎて、先の記事に関連する妙な内容の記事が出た(同年6月13日付)。
電気事業連合会は、関西電力高浜原発3、4号機(福井県)から出た使用済みМOX燃料約10トンと、関西電力の他の原発の使用済みウラン燃料約190トンをフランスで混合して再処理すると発表した。フランスへの輸送は2020年代後半、再処理は30年代初頭とのこと。記事の終わりに次のようにあるのが気になった。
関西電力は福井県に対して、2023年末までに使用済み核燃料(使用済みウラン燃料、使用済みМOX燃料双方を指す。以下同)を一時保管する中間貯蔵施設の県外候補地を示すとし、30年ごろの操業規模を2000トンと見込んでいる。それができない場合は美浜3号機と高浜1、2号機の運転を止めると公言しているという。
先の記事は使用済みМOX燃料に関してのみの内容だったが、この記事は使用済みМOX燃料・使用済みウラン燃料双方で、しかも関西電力が福井県に保有する原発に限定した内容になっているのが妙だ。
それから1週間ほどが過ぎて総まとめ的な記事が掲載された(同年6月20日付)。編集サイドでもさすがにわかりにくいと考えたようである。カラーの図解や年表を加えたものになっていた。
まず、関西電力が福井県内の原発に使用済みМOX燃料や使用済みウラン燃料など、使用済み核燃料を溜め込んでいることについて、福井県側の懸念があったのだ。
1997年、福井県は関西電力に対して使用済み核燃料の県外搬出を求め、さらに3年後の2020年、県内の美浜原発3号機、高浜原発1、2号機の「原則40年」を超える運転延長同意には、県外搬出先の候補地の提示を条件として付け加えたのである。
それに対して関西電力は2021年2月、23年末までの中間貯蔵施設の確定を約束し、福井県も同意のうえで美浜原発3号機の40年超の運転を開始し、その後国内で最も古い高浜原発1号機も再稼働させた。
しかしながら県外搬出先選びは難航する。関西電力は、東京電力と日本原子力発電が青森県むつ市に整備した中間貯蔵施設の共同利用を申し入れたが、むつ市側の反発で断念。追い込まれてやむを得ず表明したのが、約束不履行の場合の原発3基の運転停止だった。
そこへ使用済みМOX燃料再処理をフランスで実証実験という政府方針が登場し、関西電力は即座にこれに便乗する。じつにタイミングがよい。むしろ話は逆で、関西電力救済のために国が助け舟をつくりあげたと思えなくもない。記事には「政府方針を利用し、県外に保管場所を確保する約束は、研究のための搬出に姿を変えた」とある。
福井県にある関西電力の原発は美浜、大飯、高浜原発で、使用済み核燃料の貯蔵量は合計3,680トンになる。このうち使用済みМOX燃料の割合は不明だが、いずれにしろ2020年代後半に、使用済みМOX燃料約10トンと使用済みウラン燃料190トン、計200トンがフランスへ搬出される。3,680トンのうちの200トン。たった5.4%にすぎない。
にもかかわらず、関西電力の森望社長は「県外の中間貯蔵と同等の意義がある。県との約束はひとまず果たされた」との発言、「NHK 福井NEWS WEB」(同年6月19日付)にあった西村康稔経産相の次の言葉には呆れ果てるしかなった。
「今回の対応は使用済み核燃料の県外搬出という意味で、中間貯蔵と同等の意義があると考えている。中間貯蔵施設の計画地点確定は果たされたと評価できる」
明確にしておくが、残りの95%は行き先のあてもないままで、約束は守られていない。さすがに森社長も自覚していて、「必要な量を確保するための取り組みは全力でやる」と応えているのだが、具体策はないらしい。県、県議会ともに関西電力の主張を受け入れられない姿勢を示し、国からの再回答を求めている。
8月2日付には、中部電力が検討を進めている山口県上関町の中間貯蔵施設の報道があったが、ここにも関西電力が登場する。単独での建設や運営が難しい中部電力側からの提案に応じ、関西電力との共同開発という形になっている。
上関町が上関原発を誘致したのが1982年。2009年には準備工事も始まっていたが、11年の福島第一原発事故の影響を受け中断したままで、この先も建設されるものか見通せる状態ではなかった。そこで、西哲夫町長からの代替振興策の要望に応じて表明されたのが、上関原発予定地周辺での中間貯蔵施設建設である。今後、町の同意のうえで地盤調査の予定だが、建設規模などは未定である。
調べてみると、中部電力にはまだ中間貯蔵施設建設を急ぐ理由はない。これも関西電力救済のために経産省がはたらきかけた結果であろうか。しかもこの件によって、上関原発誘致のときと同様、住民の新たな分断を引き起こすことにもなり、地元にとっては厄介者でしかない。
西村経産相の発言から察するに、国が必死に関西電力救済に動いているのは明らかだろう。原発の積極活用は政府、岸田文雄政権の基本方針である。何がなんでも原発を動かしつづけるつもりなのだ。
ただ運転を続ければ使用済み核燃料は増える。電気事業連合会によれば、使用済み核燃料の95%は再利用が可能で、2030年までにプルサーマル炉12基を稼働させるというが、その見通しが立っているわけではない。仮に予定どおりにプルサーマル炉を稼働させたところで、核廃棄物は出るのであって、それを歓迎する自治体はない。
核廃棄物の問題は数十年も前から指摘されてきた。電力業界と政府は無責任にもすべてあと回しにしながら原発を動かしつづけ、そのツケがいよいよ目前に迫ってきたようだ。もちろん最終処分場も処分方法も、いまだに決まっていない。
原発を保有している電力10社の使用済み核燃料の保管場所は、今年3月時点で7割超が埋まっていて、いずれ満杯になれば核燃料の交換ができず原発は動かせなくなる。それまで、あと5〜6年ともいう。 (2023/08)
<2023.8.14>
原発内のコンクリート製プールで保管される使用済みウラン燃料(関西電力HPより)