いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂

第74回:辺野古を守れ!

 2018年12月14日午前11時過ぎ、沖縄県名護市の辺野古新基地建設現場では、海域への土砂投入がはじまった。現場でもよく確認できなかったらしく、11時20分になって、沖縄タイムスのツイッターに、護岸側の海域に土砂が投入されているのを上空のヘリコプターから確認と、投稿されていた。反対派市民は早朝から集結したりカヌーで抗議していたが、玉城デニー知事は現場ではなく県庁でコメントを発表していた。
 菅義偉官房長官は「全力で埋め立てをすすめる」と言っていたが、前名護市長稲嶺進氏の「政府はわずかな土砂投入でメンツを保っただけ。後戻りできる」とのスピーチ(14日、キャンプ・シュワブゲート前にて)で、少しホッとしたような気がした。
 「日米同盟のためではない、日本のためだ」という岩屋毅防衛相のコメントも、菅官房長官の「普天間の危険除去のための唯一の手段」という言い方も、まったく信頼のおけないものだ。辺野古新基地は滑走路が短すぎて、普天間基地の代替とはなり得ない。「辺野古新基地の完成=普天間基地の返還」と短絡的に考えないほうがよい。

 今回の土砂投入は、新聞でもテレビでも予想外に大きく報じられていて、正直のところ驚いた。共同通信の世論調査の56%が指示せず(『東京新聞』同年12月17日付)という事実は重いし、国民の関心も高いようだ。同紙社説(同年12月15日付 )は「法を守るべき政府が方をねじ曲げて進めている。なぜそこに新基地が必要か。大義も根底から揺らいでいる。直ちに土砂投入を中止し虚心に計画を見直す必要があろう」と痛烈に批判し、「あらゆる民主的な主張や手続きが力ずくで封じられる沖縄。そこで起きていることは、この国の民主主義の否定でもある。/これ以上の政権の暴走は、断じて許されない」と締めくくっている。
 強行に土砂投入に踏み切った日本政府は、2月に行われる県民投票の結果を恐れている。アメリカやイギリスでも仕事をしてきたトルコ人のフリージャーナリスト、イルグン・ヨルマズ氏は、県民投票について語っていた。「ノーが示され、それでも日本政府が民意を無視するのなら、ビッグニュースだ。日本には民主主義はないのか、問われるだろう」(『朝日新聞DIGITAL』同年11月10日付)。それでもアメリカのお墨付きを得ている日本政府は、歯牙にもかけないのだろう。
 民主主義の国アメリカは、どうしてこんな事態を見物していられるのか。辺野古新基地建設のいちばんの問題は、米軍のために日本国民の税金でつくることだ。これに関しては我々はもっと怒らなくてはいけないはずだ。アメリカの立場としては、日本がつくってくれるのならどこだっていいし、ありがたく使わせてもらうだろうが、そうでないのであれば、こんな計画は初めからなかった。
 
 玉城デニー沖縄県知事は、11月11日から16日までアメリカを訪れた。その意義について、訪米をひかえての日本外国特派員協会での記者会見で、「米国は基地を使っている責任者。県民の声が日本政府から米国政府に届けられないのであれば、我々はその声を届ける責任がある」と語っている『朝日新聞DIGITAL』同年11月10日付)。
 玉城知事の訪米については横田一氏の記事(「リテラ」同年11月24日付)を参考にさせていただく。玉城知事はニューヨークとワシントンD.Cを訪れているが、ニューヨークでの行動を「快晴」とたとえ、後半のワシントンD.Cを「雪が降る前の曇り空」とたとえた。後者は、凍えるような冷たい対応を受けたという意味である。
 あまり成果がなかったように思われるが、少しはアメリカ側に揺さぶりをかけたらしい。14日、国務省と国防総省との30分をこえる面談が行われたが、終了後国務省は「普天間代替施設(辺野古新基地)建設の約束は揺らぐことはない」との報道関係者向けの声明を発表した。そして玉城知事は記者の囲み取材に応じ、こんなことを述べている。
 「これから先、(辺野古海底の軟弱地盤を強化するための)地盤改良などがあった時は知事の許可を求めないといけない。そうすると、その許可を出すのは知事自身なので、この工事にはまだまだ完成までには時間がかかることは十分に予測されると言っておいたが、それらについては国務省や国防総省からコメントはなかった」
 この件について沖縄の地元記者は「アメリカ政府内に『本当に日本政府の言っていることは大丈夫なのか』といった疑問が芽生えた可能性がある。今まで日本政府が軟弱地盤についてアメリカ側にきちんと説明をした形跡は全くないため、今回、玉城知事から初めて事の深刻さを知らされたのではないか」と語っている。これはちょっと面白い情報である。これだけでも訪米の意義はあったとみるべきではないだろうか。

 12月8日、ホワイトハウスの請願書サイト「We the People」では、来年2月に予定されている沖縄県民投票までの間、辺野古新基地建設作業の停止を求める電子署名活動がはじまった。30日以内に10万筆が集まれば、アメリカ政府は請願への対応を検討しなければならない。この呼びかけ人は、ハワイ在住の沖縄系4世の作曲家、ロブ・カジワラ氏で、「作業を容認すれば、沖縄県民の反米感情は確実に高まり、米国と沖縄の関係は永久に損なわれるだろう」と訴えている(『沖縄タイムス』同年12月13日付)。
 日本で解決できないことをアメリカにすがるのかという意見もあるが、そうではない。当事者でありながら知らんぷりを決め込んでいるアメリカ政府に突きつけるのだ。
 土砂投入という段階まできてしまったのだから、少しでも効果があると思われることには協力しよう。英文サイトだが、ぼくにでもどうにか署名できたらしい。まだ3万4,000筆ほどだった。先が長いなと思っていたら、『東京新聞』(同年12月17日付)が1面トップで記事にしてくれた。記事によればすでに6万筆までいっていた。そしてフォロアー数520万というローラさん(モデル、タレント)が、18日早朝からインスタグラムで署名を呼びかけているという(『沖縄タイムス』同年12月18日付)。この影響力は大きかった。18日午後3時15分、10万筆に達したようだ。わずか10日間だった(『沖縄タイムス』同日続報)。ローラさんについては、以前より慈善活動に積極的とは聞いていたが、沖縄の問題でも動いてくれるとは思っていなかった。
 「他国が行っている施策に関することだ」。これは、署名活動について求めに応じた菅官房長官のコメントだが、いつもどおりひどいものだ。アメリカ軍のために、日本の税金をつかって日本の土地に日本の労働力でつくっているのだ。初めから日本は主体的に関わってきている。
 ホワイトハウスの請願書サイトの話を聞いたとき、オバマ政権時につくられたものをすべて否定し続けるトランプ大統領のこと、「そんなものはナシだ!」と、途中でサイトを閉鎖してしまうのではないかと考えた。初めから基地建設中止を求める請願にしてくれたほうが手っ取り早かったとも思ったものだが、ここまできたのなら、今後の動きを見守ろう。
 10万筆というのはスタート地点にすぎないのだ。40万、50万筆と伸ばしていけば世界のメディアも注目するし、アメリカ政府も無視はできない。このような動きをつくってくれたロブ・カジワラ氏、追い込みをかけてくれたローラさんには感謝しなくてはならない。
 ここにきて、宮古島市議会が県民投票のための予算措置を執行しないことを決議したという報道があった。つまり、県民投票に不参加ということである。沖縄県には現政権に近い市町村長も少なくないのだ。だれか心ある市民が声をあげて、その決定を覆してくれないだろうか。  (2018/12)


<2018.12.20> 

ホワイトハウスの請願書サイト〈We the People〉

ローラさんのインスタグラムより

いま、思うこと

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 第10回:ぼくの日本国憲法メモ ②

  
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工藤茂(くどう・しげる)

1952年秋田県生まれ。
フリーランス編集者。
15歳より50歳ごろまで、山登りに親しむ。ときおりインターネットサイト「三好まき子の山の文庫」に執筆しているが、このところサボり気味。

工藤茂さんの<ある日の「山日記」から>が読めます。LinkIcon