いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂

第68回:活断層と辺野古新基地

 今年4月25日で、沖縄の辺野古新基地建設にともなう護岸造成工事の着工まる1年になった。日本政府は強硬姿勢をくずすこともなく、建設阻止を掲げる翁長雄志[おなが たけし]沖縄県知事との激しい対立は続いたままだ。
 辺野古の現場では、建設工事の中止を求める市民の抗議活動もつづく。とくに着工1年を踏まえて25日から28日まで連続6日間の集中抗議集会が開かれ、初日の25日は680人の市民や国会議員が集結したほか、最終日には1,500人、6日間で述べ4,700人が参加した。
 連日の抗議のなかでも、埋め立て区域では外枠の護岸が沖合へと延ばされていき、これまで完成した護岸の総延長は1,000メートルをこえた。護岸先頭では毎日のように、トラックから人の頭よりも大きな石材がガラガラと降ろされている状態である(『東京新聞』2018年4月25日付)。
 防衛省沖縄防衛局は埋め立て区域への土砂投入を、早ければ8月17日に着手することを沖縄県に通知した。これにより埋め立て工事は、これまでの護岸造成工事から土砂投入という、後戻りのできない大きな節目を迎えることになる。地元名護市の渡具知武豊[とぐち たけとよ]市長は「環境に配慮して進めていくものだと思っている。ぜひそうしていただきたい」と述べ、そのうえで「法令にのっとった工事を市の権限で止めるということにはならない」と答えた(『琉球新報』Web版、同年6月13日付)。
 このような動きに対して翁長知事は、前知事による埋め立て承認を撤回する意向を明言しているのだが、その時期はまだ不明だ。しかし、「環境保全措置などについて看過できない事態となれば、ちゅうちょなく必ず行う」と述べている(『東京新聞』同年6月13日付)。

 少しさかのぼるが、『東京新聞』(同年2月18日付)に「辺野古海底に活断層」という記事があった。2月14日に「オール沖縄会議」が主催した討論会でのことである。琉球大学の加藤祐三名誉教授(岩石学)が、2000年に防衛庁(当時)が作成した海底地層断面図の辺野古沿岸部にみられる、50メートル以上沈下した部分は活断層であることを明らかにした。
 『現代ビジネス』Web版(同年6月7日付)に、「辺野古新基地『グズグズの地盤』を見て見ぬふりをする政府の異様」と題する同様の記事がある。書き手は東京新聞の論説委員、半田滋氏。防衛・安全保障が専門の信頼できる記者だが、かなり詳しい内容になっている。ふたつの記事を参考に、この問題について紹介したい。
 辺野古新基地は、岬のように突き出た辺野古崎に造られる計画である。V字型の滑走路が岬を横断するように海に迫り出す形になり、現在の陸地からはみ出た部分は埋め立てられる。加藤名誉教授によると、新基地予定地近くの陸上部には2本の断層があり、この2本の断層の延長線が海中で交わった先に、水深50メートルの深い谷があるという。この落ち込みの位置がちょうど建設予定のV字滑走路先端部にあたるという。この50メートルの落ち込みは何度か断層が動いた結果と考えられ、活断層の可能性が高く、地震や津波の発生源となり得ると指摘する。
 この件に関し昨年の11月24日、糸数慶子参議院議員(沖縄の風)が参議院議長に質問主意書を提出し、政府見解を求めたところ、政府は「辺野古沿岸域に活断層が存在するとは認識していない」とする答弁書を閣議決定するとともに、海底地盤の安全性についても「問題ないものと認識している」とした。

 じつは2007年8月、那覇防衛施設局(現沖縄防衛局)は環境影響評価方法書を作成しており、そのなかの「地層断面位置図」「推定地層断面図」には、基地建設予定地先の海底に50メートルの落ち込みがあることは明確に示されているという。しかも2017年2〜4月にかけて沖縄防衛局は大型調査船「ポセイドン」によって工事海域の地質調査を行っていて、落ち込み部分も念入りに調査しており、危険性は充分に認識している様子だという。だが、政府はこの調査結果を公表しようとはせず、地質調査を行ったことすら答弁書では触れていないという。
 日本の裁判では、警察・検察が収集した証拠資料すべてを開示する義務はない。つまり容疑者の利益になるような資料は提出しないのだが、まるでその手口のままであり、国会質疑におけるデータの隠蔽とも同様である。
 そこで今年3月、新基地建設反対派の「沖縄市民連絡会」の北上田毅氏が、情報公開請求によって地質調査報告書を入手したところ、明らかに活断層の可能性が指摘されていたという。同報告書は2014年から2年間のもので、埋め立て予定海域24カ所で行われた海底ボーリング調査と音波調査による地質データだが、そこには、昨年のポセイドンによる地質調査はふくまれていなかった。
 地質調査報告書によると、問題は活断層にとどまらなかった。キャンプ・シュワブ東岸、大浦湾に面した埋め立て予定地の海底は「軟弱地盤」とされていて、「当初想定されていないような特徴的な地形・地質」「非常に緩い・柔らかい」と記述されていただけでなく、地盤強度を示す「N値」がゼロとされていた。
 この数値がどういうものかというと、大型構造物の基礎地盤にはN値50以上が必要とされているにもかかわらず、複数の地点でN値ゼロと確認されたという。強度を測る器具(おもり、試験杭)を置けばズブズブ沈むほどの値であり、北上田氏は「マヨネーズの上にモノを置くような状態」と表現している。そもそも辺野古の海底は、場所によっては軟らかい砂や粘土が約40メートルも堆積しているという。
 今月に入って震度5〜6クラスの地震が頻発している。東日本大震災の影響で日本列島には大きなひずみが生じ、M6クラスの地震などいつどこで起きても不思議ではない状況だという。いったい国はどうするつもりであろうか。軟弱なうえに活断層が近接するところに、弾薬庫だの燃料庫などの施設を造るのであろうか。核兵器だって持ち込まれているかもしれない。巨大地震が起きたらどれほどの惨事に遭遇することになるのであろうか。
 いくら強引な安倍政権といえども、そんな軟弱な地盤に巨大な構造物など造ることは想定していないと思われるが、どうしても造るとなると大規模な地盤改良工事が必要になるという。この地盤改良工事には当初の計画にはない巨額の出費を余儀なくされるというが、防衛省幹部は「見積もり違いなどによる価格高騰は承知のうえ」とのこと。もちろんすべて税金からの出費である。
  
 先に述べた埋め立て承認撤回の件だが、ここにきて撤回とはべつに土砂投入を暫定的に停止させる手段として工事中止命令が浮上してきた。
 工事の中止命令は、工事の実施設計書を軟弱地盤に対応した内容に変更することを防衛局に求めるもので、新たな実施設計書を提出するまで工事は中止となる。それも設計変更だけではなく、知事の承認も必要となる。『沖縄タイムス』Web版(同年6月17日付)は数日間の停止と報じているが、共同通信Web版(同年6月13日付)では「翁長知事が即座に認める可能性は低い」として見方が分かれる。
 工事中止命令につづいて行われる承認撤回表明にしても、防衛局の言い分を聞く「聴聞」も必要で、土砂投入前に表明するには手続上7月前半までに表明する必要があるとされる。これに対して防衛局は代執行訴訟を起こすともみられ、また国と県との法廷闘争に移ることになる。それはそれでよいのだが、こうした法廷闘争の間は工事を停止させられるような手立てはないものであろうか。
 最近の大きな動きにアメリカと北朝鮮の急接近があって、米韓合同軍事演習も当面中止となったようだ。これは在韓米軍の縮小・撤退へとつながる可能性もあり、歓迎すべき動きである。これがさらに在日米軍基地の縮小・撤退へと動くのであればさらに大歓迎なのだが、アメリカと中国が覇権を争っているかぎり、そうとはならないだろう。
 これらの動きは、まさに沖縄の米軍基地問題に直結している。沖縄では、翁長知事の健康問題があり、11月に想定される沖縄県知事選挙もひかえている。今後も注視していこう (2018/06)

 
 
<2018.6.21>
 

名護市「基地周知パンフレット」より

いま、思うこと

第1〜10回LinkIcon 
 第1回:反原発メモ
 第2回:壊れゆくもの
 第3回:おしりの気持ち。
 第4回:ミスター・ボージャングル Mr.Bojangles
 第5回:病、そして生きること
 第6回:沖縄を思う
 第7回:原発ゼロは可能か?
 第8回:ぼくの日本国憲法メモ ①
 第9回:2013年7月4日、JR福島駅駅前広場にて
 第10回:ぼくの日本国憲法メモ ②

  
第11〜20回LinkIcon
 第11回:福島第一原発、高濃度汚染水流出をめぐって
 第12回:黎明期の近代オリンピック
 第13回:お沖縄県国頭郡東村高江
 第14回:戦争のつくりかた
 第15回:靖国参拝をめぐって
 第16回:東京都知事選挙、脱原発派の分裂
 第17回:沖縄の闘い

 第18回:あの日から3年過ぎて
 第19回:東京は本当に安全か?
 第20回:奮闘する名護市長

第21〜30回
LinkIcon
 第21回:民主主義が生きる小さな町
 第22回:書き換えられる歴史
 第23回:「ねじれ」解消の果てに
 第24回:琉球処分・沖縄戦再び
 第25回:鎮霊社のこと
 第26回:辺野古、その後
 第27回:あの「トモダチ」は、いま
 第28回:翁長知事、承認撤回宣言を!
 第29回:「みっともない憲法」を守る
 第30回:沖縄よどこへ行く
  
第31〜40回LinkIcon
 第31回:生涯一裁判官
 第32回:IAEA最終報告書
 第33回:安倍政権と言論の自由
 第34回:戦後70年全国調査に思う
 第35回:世界は見ている──日本の歩む道
 第36回:自己決定権? 先住民族?
 第37回:イヤな動き
 第38回:外務省沖縄出張事務所と沖縄大使
 第39回:原発の行方
 第40回:戦争反対のひと

第41〜50回  LinkIcon
 第41回:寺離れ
 第42回:もうひとつの「日本死ね!」 
 第43回:表現の自由、国連特別報告者の公式訪問
 第44回G7とオバマ大統領の広島訪問の陰で
 第45回:バーニー・サンダース氏の闘い 
 第46回:『帰ってきたヒトラー』
 第47回:沖縄の抵抗は、まだつづく 
 第48回:怖いものなしの安倍政権
 第49回:権力に狙われたふたり 
 第50回:入れ替えられた9条の提案者 
 第51~60LinkIcon
    第51回:ゲームは終わり
 第52回:原発事故の教訓
 第53回:まだ続く沖縄の闘い 
 第54回:那須岳の雪崩事故について
 第55回:沖縄の平和主義
 第56回:国連から心配される日本
 第57回:人権と司法
 第58回:朝鮮学校をめぐって
 第59回:沖縄とニッポン
 第60回:衆議院議員選挙の陰で

第61回:幻想としての核LinkIcon 

第62回:慰安婦像をめぐる愚LinkIcon

第63回:沖縄と基地の島グアムLinkIcon

第64回:本当に築地市場を移転させるのか?LinkIcon

第65回:放射能汚染と付き合うLinkIcon 

第66回:軍事基地化すすむ日本列島LinkIcon 

第67回:再生可能エネルギーの行方LinkIcon 

第68回:活断層と辺野古新基地LinkIcon 

第69回:防災より武器の安倍政権LinkIcon 

第70回:潮待ち茶屋LinkIcon 

第71回:日米地位協定と沖縄県知事選挙LinkIcon 

第72回:沖縄県知事選挙を終えてLinkIcon 

第73回:築地へ帰ろう!LinkIcon 

第74回:辺野古を守れ!LinkIcon 

第75回:豊洲市場の新たな疑惑LinkIcon 

第76回:沖縄県民投票をめぐってLinkIcon 

第77回:豊洲市場、その後LinkIcon

第78回:元号騒ぎのなかでLinkIcon 

第79回:安全には自信のない日本産食品LinkIcon 

第80回:負の遺産の行方LinkIcon 

第81回:外交の安倍!?LinkIcon 

第82回:「2020年 東京五輪・パラリンピック」中止勧告LinkIcon 

第83回:韓国に100%の理LinkIcon 

第84回:昭和天皇「拝謁記」をめぐってLinkIcon 

第85回:濁流に思うLinkIcon 

第86回:地球温暖化をめぐってLinkIcon 

第87回:馬毛島買収をめぐってLinkIcon 

第88回:原発と裁判官LinkIcon 

第89回:新型コロナウイルスをめぐってLinkIcon 

第90回:動きはじめた検察LinkIcon 

第91回:検察庁法改正案をめぐってLinkIcon 

第92回:Black Lives Matter運動をめぐってLinkIcon 

第93回:検察の裏切りLinkIcon 

第94回:沖縄を襲った新型コロナウイルスLinkIcon 

第95回:和歌山モデルLinkIcon 

第96回:「グループインタビュー」の異様さLinkIcon 

第97回:菅政権と沖縄LinkIcon 

第98回:北海道旭川市、吉田病院LinkIcon 

第99回:馬毛島買収、その後LinkIcon 

  

第100回:殺してはいけなかった!LinkIcon 

第101回:地震と原発LinkIcon

第102回:原発ゼロの夢LinkIcon 

第103回:新型コロナワクチンLinkIcon 

第104回:新型コロナワクチン接種の憂鬱LinkIcon 

第105回:さらば! Dirty OlympicsLinkIcon 

第106回:リニア中央新幹線LinkIcon

第107回:新型コロナウイルスをめぐってLinkIcon 

第108回:当たり前の政治LinkIcon 

第109回:中国をめぐってLinkIcon 

第110回:したたかな外交LinkIcon

第111回:「認諾」とは?LinkIcon 

第112回:「佐渡島の金山」、世界文化遺産へ推薦書提出LinkIcon

第113回:悲痛なウクライナ市民LinkIcon 

第114回:揺れ動く世界LinkIcon 

第115回:老いるLinkIcon

第116回:マハティール・インタビューLinkIcon 

第117回:安倍晋三氏の死をめぐってLinkIcon

第118回:ペロシ下院議長 訪台をめぐってLinkIcon 

第119回:ウクライナ戦争をめぐってLinkIcon 

第120回:台湾有事をめぐってLinkIcon 

第121回:マイナンバーカードをめぐってLinkIcon 

第122回:戦争の時代へLinkIcon

第123回:ウクライナ、そして日本LinkIcon 

第124回:世襲政治家天国LinkIcon 

第125回:原発回帰へLinkIcon 

第126回:沖縄県の自主外交LinkIcon 

第127回:衆参補選・統一地方選挙LinkIcon 

第128回:南鳥島案の行方LinkIcon 

第129回:かつて死刑廃止国だった日本LinkIcon 

第130回:使用済み核燃料はどこへ?LinkIcon 

第131回:ALPS処理水の海洋放出騒ぎに思うLinkIcon 

第132回:ウクライナ支援疲れLinkIcon 

第133回:辺野古の行方LinkIcon 

第134回:ドイツの苦悩LinkIcon 

第135回:能登半島地震と原発LinkIcon 

第136回:朝鮮人労働者追悼碑撤去LinkIcon 

第137回:終わりのみえない戦争LinkIcon

第138回:リニア中央新幹線と川勝騒動LinkIcon 

第139回:ある誤認逮捕LinkIcon 

第140回:日本最西端の島からLinkIcon 

第141回:隠された米兵性的暴行事件LinkIcon 

第142回:親ユダヤと正義LinkIcon 

第143回:ベラルーシの日本人スパイLinkIcon 

第144回:「ハイドパーク覚書」をめぐってLinkIcon

第145回:鼻をつまんで1票LinkIcon

工藤茂(くどう・しげる)

1952年秋田県生まれ。
フリーランス編集者。
15歳より50歳ごろまで、山登りに親しむ。ときおりインターネットサイト「三好まき子の山の文庫」に執筆しているが、このところサボり気味。

工藤茂さんの<ある日の「山日記」から>が読めます。LinkIcon