いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂
第86回:地球温暖化をめぐって
グレタ・トゥーンベリさんという16歳のスウェーデン人少女を、テレビのニュースでよく目にする。最近では環境活動家として紹介されているようだ。2018年8月からスウェーデン政府に対し、温室効果ガスの排出量削減を求めて抗議活動を始めているという。。
ぼくが彼女を知るようになったのはずっと遅く、今年の9月23日、ニューヨークの国連本部で開催された「気候行動サミット」でのスピーチによってである。あのスピーチはメディア側にとってもかなり衝撃的だったらしく、テレビでも何度も放映された。
会場に集まった各国のリーダーを前に笑顔を見せることもなく、怒りまくった。ときには涙さえも浮かべながら、温室効果ガスの排出量削減のために行動しようとしない大人たちに訴えたのである。
「すべての生態系が破戒されています。私たちは大量絶滅の始まりにいます。それなのにあなたたちが話しているのは、お金のこと、経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり。恥ずかしくないんでしょうか!」(「HUFFPOST」2019年9月24日付)
これはキツイ。正直のところぼくも困ってしまった。少しはまともなはずだと思っていたぼく自身も、彼女の言葉によって、若者たちを裏切り、失望させる、邪悪な人間の側に追いやられてしまったように思えたからだ。
そんなトゥーンベリさんの態度には相当な違和感を覚えた。沖縄の米軍基地反対集会での高校生たちのスピーチと比べてみよう。抗議をするにしても、口を歪めたり吐き捨てるような言い方をしたりしなくとも、もっと穏やかな物言いや態度だってあるように思う。また、いろいろな数値を提示しながらのスピーチだったが、はたしてその数値が正しいものかどうか、勉強不足のぼくにはよく理解できなかった。
そして今度は12月2日からスペイン、マドリードで開催されたCOP25(第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議)にも現れて、主催者発表50万人のデモを先導して注目を浴びた。いまや環境運動のヒロインである。『Time』誌の今年の顔にも選出された。
数カ月前のものだが、「国連気候変動スピーチで注目のグレタ・トゥーンベリさんについて知ってほしい5つのこと」(「Yahoo! Japanニュース」同年9月28日付)という記事を偶然読んだ。書き手は国立環境研究所地球環境研究センター、副センター長の江守正多[せいた]氏である。どういう人物か知らないが、トゥーンベリさんについては早い時期から注目していたという。気になったことのみまとめてみる。
トゥーンベリさんは、アスペルガー症候群の治療を受けているという。アスペルガー症候群とは、社会性発達の質的障害、コミュニケーションの質的障害、興味や活動の偏りなど、自閉症と重複する症状があるものの、知的障害や言語の発達に遅れはなく、一見すると「ちょっと変わった人」程度にみえるという。江守氏は彼女について、「感じ方、表現の仕方が、『ふつう』とちょっと違う」と評している。それは「障害」ではなく「脳の多様性」とみる。
我々のように「ふつう」の脳の持ち主は、地球の危機の話を聞いてとても心配になったとしても、日常生活を送るうちに気をまぎらすことができる。しかし彼女は11歳のとき、地球の危機について心配するあまり、2カ月間にわたって会話も食事もできなかった。これは、地球の危機を心配し続けることができる「才能」だという。
少数のこういった特別の才能をもったひとが、大多数の「ふつう」の脳の持ち主に対して警告を発するということは、「人類種の進化の過程で遺伝的な多様性として埋め込まれた、種の存続のためのメカニズムではないか」というのが江守氏の仮説である。
さらに江守氏は、彼女が訴えているのは政策ではなく、科学者の声を聞くことだとしたうえで、スピーチで提示している数値についても、一部誤解を招きやすい部分があるものの、若干の補足を加えれば「大筋において最新の科学を踏まえたものといえるだろう」としている。
トゥーンベリさんは肉を食べず、飛行機に乗ることを避けているが、それは彼女自身の「こだわり」が強い部分で、他人にもそれを求めているわけではない。同じ危機感をもちながらも必要最小限に抑えるということがあってもよいはずだとも。
彼女は、多くのひとびとが行動を起こそうとしないのは、危機が訪れていることを理解できていないからだと考えていたようだが、それが、理解しつつ行動しようとしない「邪悪な」ひとびとだったと確信したとき、大人たちへ怒りは憎しみに変わるかもしれない。そのとき彼女はいったいどのような言葉を吐き出すのであろうかと、江守氏は危惧している。
日本の石炭火力発電が、世界から槍玉にあげられているようだ。我が国にとって石炭は、安定供給や経済性に優れた燃料である。したがって、石炭火力発電は二酸化炭素や水銀の最大の排出源とされているにもかかわらず、我が国はベース電源と位置づけ、今後も22基を新設・稼働、さらには新興国への輸出計画までもっている。
「2018年度エネルギー白書」から日本の電源構成(2016年)をみると、驚くことに83.8%が火力発電である。その内訳は上位からLNG(液化天然ガス)42.1%、石炭32.3%、石油9.3%という構成である。二酸化炭素の排出量については、LNGや石油のほうが石炭より優れているが、中東からの輸入となるため価格の不安定性がネックとなるほか、LNGは発電コストが高い。
我が国が石炭火力発電からなかなか離れられない事情がみえてきたが、そこで政府が目指しているのが、石炭火力発電の高効率化である。高効率石炭火力発電に関する情報は、資源エネルギー庁、電力会社関連のサイトに溢れ、日本の石炭火力発電技術は世界最先端であることを謳っている。先の石炭火力発電所の新設も、古い発電所を高効率の発電所に建て替え、世界最高水準の高効率石炭火力発電によって二酸化炭素の排出量を減らそうというものだ。すでに実証実験が始まり、一部商用運転に入っている。
小泉進次郎環境大臣は先日のCOP25のスピーチで、高効率石炭火力発電の推進を強く訴えるものと思っていたのだが、そうではなかった。我が国が温室効果ガス排出量を5年連続で減少させていることを紹介するのみで、言及することなく終わった。
どういうことなのか。石炭火力発電を止めようとしている側が運営するサイトには、「石炭火力発電は高効率でも、排出されるCO2は多い」と記されている。それによると、たとえ石炭ガス化複合発電(IGCC)という次世代型高効率石炭火力発電を導入したとしても、二酸化炭素排出量は石油火力発電程度にしかならないという。つまり、政府も小泉環境大臣も、日本が石炭火力発電からの撤退を宣言しない限り、納得が得られないことを理解していたのだろう。
日本の場合、LNGにしろ石炭にしろ石油にしろ、こういった化石燃料は100%近くが輸入である。電源構成の8割を占める火力発電の燃料がすべて輸入ということは、我が国のエネルギー自給率は極端に低く、わずか8.3%(2016年)にすぎない。日常的に必要な電気をつくる材料を、すべて輸入に頼っていてよいはずがない。ついでにいえば、電源構成では1.7%にすぎないが、原発に用いるウランも輸入である。
トゥーンベリさんから名指しで糾弾される前に、日本政府はエネルギー政策を根本的に改める方向へと舵を切る必要がありそうだ。豊富な地熱資源など、自前の貴重な資源を活用すべきである。これは温室効果ガス排出とは別の観点からみてもいえることだろう。
ぼくは温室効果ガスによる地球温暖化説には、不充分な知識ながらも懐疑的にみていた。この稿もその方向へと書きすすめるつもりでいたのだが、江守氏のものを読んでいるうちに洗脳されつつあるようで、そうとはならなかった。関心のある方は、次のサイトを覗いてみていただきたい。Wikipediaによると、江守氏は「懐疑派バスター」の一員だそうだが。
https://www.cger.nies.go.jp/ja/people/emori/nikkei/
(2019/12)
<2019.12.17>
グレタ・トゥーンベリさん(米『TIME』誌HPより)
日本のエネルギー・発電の供給量割合(「エネルギー白書2018」)