いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂
第66回:軍事基地化すすむ日本列島
4月4日、アメリカ空軍の輸送機オスプレイ5機が横浜港の米軍施設「横浜ノースドッグ」に陸揚げされたが、その後の動きが不明なため日本の防衛省職員が確認のために貼り付いて監視する事態となっていた。つぎは、『東京新聞』(2018年4月5日付)で紹介された南関東防衛局職員の漏らした言葉である。
「本省から情報がない。いつ飛び立つか、米軍がどんな作業をしているのか。ノースドックを望める場所から職員が交替で目視している」
これが日米の緊密な連携の実態かと驚かされた。そして5日午前、5機のオスプレイは神奈川県、東京都の上空を飛行し、米軍横田基地へと着陸した。制御不能に陥りやすく危険とされてきたオスプレイが首都圏上空を飛んだのだから、テレビ、新聞は大騒ぎだった。この5機は13日、太平洋上の訓練参加のため離陸し、横田基地への本格配備は夏からとなる。
ところで米軍のオスプレイは2012年10月、民主党野田政権時に沖縄の普天間飛行場に12機配備。その後、自民党安倍政権に代わって翌年9月に12機が追加配備されて24機態勢となった。当時、テレビや大手新聞がどの程度報道したか明確に記憶しているわけではないが、今回ほど大きくはなかったのではなかろうか。
オスプレイ配備は米軍基地にとどまらない。自衛隊は2016年度から18年度までで17機のオスプレイを導入予定で、近い将来在日米軍、自衛隊合わせて51機のオスプレイが日本全土に展開されることになる。どこでどのような事故が起こっても不思議ではない。
さてその沖縄だが、最近の動きから相当難しい局面にきていることを実感させられる。
2月4日に投開票が行われた名護市市長選挙で、辺野古新基地建設反対を訴え翁長雄志[おなが たけし]知事の支援を受けた現職の稲嶺進氏は、政府与党から全面支援を受けた渡具知[とぐち]武豊氏に敗れた。市長権限を可能な限り行使して、工事のブレーキ役を担ってきた稲嶺氏を失ったことは大きな打撃である。沖縄で長年米軍基地反対運動に取り組んできた伊波義安氏は、2月10日に東京で行った講演でつぎのように述べて残念がった。
「市民の六〜七割は移設反対だが、対立候補は経済振興を前面に出し議論を避けた。安倍官邸の戦略勝ちで、真の敗者は民主主義と自治だ」(『東京新聞』同年2月15日付)
安倍政権は工事を着々とすすめることによって、市民の「反対しても工事は止められない」という諦めムードを醸成してきたことに加え、自民党幹部が繰り返し渡具知氏の応援に駆けつけ、再編交付金もちらつかせた結果であろうか。
那覇地方裁判所で重要な判決があった。3月13日、辺野古新基地建設工事をめぐって沖縄県が国の工事差し止めを求めた訴訟の判決で、那覇地裁(森鍵一[もりかぎ はじめ]裁判長)は、県の訴えを却下した。「県の訴えは裁判の対象にならない」として実質的な審議に入ることなく門前払いにしたのである。当然、県は控訴の方針である(『東京新聞』同年3月14日付)。この判決をうけてのことであろうか、政府は7月に辺野古沖での土砂投入を開始して、工事を本格化させるという(『東京新聞』同年4月8日付)。
翁長知事は3月11日から16日にかけて訪米中で、この判決をアメリカで聞いている。ワシントンで行われた沖縄の米軍基地問題をテーマとした沖縄県主催のシンポジウムに出席していた。翁長知事はその講演で、「日米両政府が辺野古新基地の工事を強行するのであれば、安定的な日米安保体制の構築が難しくなる」と述べ、日米両政府に再考を促した(『沖縄タイムス』電子版、同年3月14日付)。このシンポジウムについていくつかの記事に目を通したが、大きな成果を得たとは言いがたい状況だ。
3月11日には石垣市市長選挙の投開票が行われた。陸上自衛隊のミサイル部隊の石垣島への配備計画の是非が争点となったが、安倍政権が支援する現職中山義隆氏が三選を果たした。この地域の自衛隊配備に関しては、与那国島には2年前から自衛隊が駐屯し、奄美・宮古島では自衛隊基地建設がすでに着工、石垣島は最後の砦だったが、それも崩れたことになる。この選挙戦は、安倍政権と対立する翁長知事が新人の宮良操氏を支援していたため「代理対決」ともいわれた。秋に行われる県知事選の前哨戦との色合いも濃厚だったふたつの市長選で、翁長知事が支援する候補が軒並み落選となってしまった。
2月27日には、沖縄本島に地上から艦艇に対処する地対艦誘導弾(SSM)の新たな部隊の配備を検討しているという発表もあった。中国海軍の艦艇が沖縄本島と宮古島間を頻繁に通過する現状を踏まえてのことである。さらに3月27日に発足した離島奪還作戦の専門部隊「水陸機動団」3連隊のうち1連隊を沖縄本島におく方針である。
辺野古新基地の工事着工や奄美・沖縄地方への自衛隊配備は、これまでのどの政権もがためらってきたことだが、安倍政権になって強権的にすすめられるようになった。いまでさえ米軍基地が集中する沖縄に、さらに新しい基地をつくるなどもってのほかなのだが、安倍政権にはそういった想いは皆無だ。しかも、なぜこの基地が必要かということについて、政府は「抑止力としての海兵隊」の必要を挙げるが、海兵隊の多くはグアム移転が決まっているのだから納得できる回答にはなっていない。
このままでは辺野古に新しい基地が完成してしまう可能性が高まってきた。激しい反対運動によって工期は予定よりも遅れることになるだろうが、結果的に基地は完成するかもしれない。完成してしまえば恒久的な基地として居座ることになるが、おそらく住民が納得したうえでつくられる初めての米軍基地となる。
さらに2017年6月、当時の稲田朋美防衛大臣がポロリと口を滑らせてしまったが、辺野古新基地が完成しても普天間基地が返還されるとは限らない。どうやら辺野古につくられる滑走路が1,800メートルと短いことに原因があるようだ。
こうして沖縄は、日米両国の軍事基地の島となってしまうのであろうか。いや、沖縄で起きていることはやがて本土でも起きるのだ。冒頭でも述べたように、米軍と自衛隊のオスプレイはいずれ全国を飛び回る。さらに昨年暮れには、秋田市、山口県萩市に地上配備型弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」2基の導入計画が明らかにされた。呼び名に「迎撃」と付されているが、本来は攻撃兵器である。
日本がアメリカから導入するこのような兵器は、米軍との緊密な連携のうえで運用される。こうして自衛隊基地にも米軍が入り込むことになる。米軍と自衛隊による日本列島の軍事基地化がすすめられていると思われるのだが、これは大袈裟な捉え方であろうか。
安倍政権は、あたかも軍備のみによって平和が維持されると言わんばかりに軍備増強にいそしみ、際限がない。まさに「富国強兵」を再現しているかのようである。北朝鮮や中国から攻撃を受けることを想定しているようだが、安倍政権には平和外交がない。とくに北朝鮮に対しては、「対話のための対話は意味がない」「必要なのは対話ではなく圧力だ」のみで押し通してきた。
このような政権でも支持するひとびとは少なくない。もう6年もつづいてしまったが、ここにきてようやく支持率も下がり気味の傾向だ。安倍政権もいつかは終わる。問題は今後も安倍政権を踏襲するような政権がつづくのかということである。いったいこの国はどこへ向かうのかと、暗澹たる気持ちになる。
こんなことを書き連ねていたところ4月13日、アメリカのトランプ大統領はシリアのアサド政権が化学兵器を使用したとして、英仏両国とともに軍事攻撃に踏み切った。確たる証拠はないようだが、イギリス、フランスまで同調するとはどういうことであろうか。嘘の情報をもとに空爆に踏み切ったイラク戦争の二の舞になりそうな気配もある。
この軍事行動には日本も無関係ではない。安倍首相が早々に「米英仏の決意」を支持表明しただけではない。沖縄の米軍嘉手納基地からは4月14日午後、電子偵察機RC135Sコブラボールが離陸している。弾道ミサイル観測能力をもつRC135Sコブラボールは、13日にアメリカのネブラスカ州オファット基地から飛来したもので、嘉手納基地から空中給油機2機とともに飛び立っていった。この動きはシリア攻撃と関連したものと受け止められている(『琉球新報』同年4月15日付)。
さすがに今回は自衛隊への参戦要請はなかったようだが、今後も安倍政権のように、集団的自衛権行使を容認する政権がつづくのであれば、そういったこともあり得ることも覚悟しなくてはならない。ふと気がついたら、『日刊ゲンダイ』(同年4月17日付)には「自衛隊 シリア参戦か」という大きな見出しが躍っているのだった。今後も沖縄、政治の動きを注視したい。 (2018/04)
<2018.4.19>