いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂
第103回:新型コロナワクチン
5月10日、新型コロナワクチン接種券が届いた。こういった書類が来ると、自分も普通の高齢者だったと自覚させられる。予約受付は24日から。区内の接種会場は3カ所だが、予約を取るのも容易じゃなさそうなので、慌てずに様子見としよう。
ただ、ある臨床医からの話だが、単身独居で軽度の認知症の高齢者、姉妹の暮らしでどちらも耳が不自由な高齢者など、こういった方たちは、ワクチンの予約システムから完全に閉め出されているという。こういうひとびとには、当日キャンセルであまったときに連絡をとって接種に来てもらうように、外来時に説明しているとのこと。こういう医師によってどうにか隙間が埋められていることを実感させられる。
偶然テレビで観た話である。東京都豊島区のある高齢者は、ワクチン予約の電話を何度もかけてようやくつながったのだが、1回目が8月下旬、2回目が9月上旬と言われたという。菅義偉[よしひで]首相は、「7月末までに(65歳以上の)全高齢者のワクチン接種を完了させる」と言い、85%の自治体が可能という報道もあったが、現実はそんなに容易なものではなく、10月までかかるところさえあるという。
7月末までに終了予定の自治体割合が最も少ないのが秋田県で、56%だという。佐竹敬久[のりひさ]知事は「さば読みのところもいっぱいある。簡単に言えば菅首相の顔を立てろということだ」と現状を明かしている。秋田県は菅首相の出身県だが、首相の地盤の神奈川県も大変だ。「神奈川県は菅首相と河野太郎担当大臣を輩出している県として(達成は)絶対命題だ。絶対実現しないといけない」と黒岩祐治知事の意気込みはすごい。
大阪大学名誉教授の宮坂昌之氏によれば、ワクチン接種がひろまって国民の3〜4割が2回目の接種を終えれば感染者数の上昇はほぼ止まり、5割を超えるとぐーっと下がってくるという(『毎日新聞』同年5月11日付)。
これに加えて生物学者の池田清彦氏(早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授)の話。 感染対策としてのワクチン接種は一気にまとめてやらないと効果がなく、「今みたいに五月雨式にやってもダメだよ。ワクチンの効果って1年続かないことがある」とのことだ。そうすると、早めに接種したひとの効果が切れる頃になってもまだ収束せず、「そうしたらまたワクチン打たなきゃならなくなって、永遠に終わらない」ということになるという(『AERAdot.』2021年5月10日付)。
しかも池田氏は、供給量が充分になるまでは、感染率の高い若いひとや、他人にうつすリスクの高いひとから接種を始め、社会的活動が少ない年寄りには少し我慢してもらっておいたほうが、全体的に早く収束に向かうはずだとも。
では供給量はどうかといえば、はなはだ心許ない。ロイター通信(同年5月7日付)によれば、日本に到着しているワクチンは2,800万回分だが、使用されたのは400万回分にすぎず、あまりにも接種ペースが遅すぎるという。政府関係者によると、ファイザーの都合で予定どおりにワクチンが納入されておらず、医療従事者向けに配送されたものを一時的に高齢者向けに回すようにお願いしているのが実態のようだ(『AERAdot.』同年5月13日付)。これでは池田氏の指摘するように「永遠に終わらない」ことも覚悟しておく必要がありそうだ。
ワクチンの温度管理を誤り960回分廃棄、冷蔵庫の扉を閉め忘れて150回分廃棄という報道や、間違って生理食塩水を注射したという報道がある。
ぼくが受け取ったコロナワクチン接種券の説明書には、2回ともファイザー社製ワクチンを接種することが明記されているが、このファイザー社製ワクチンは取り扱いが厄介らしい。以下は、「47NEWS」(同年4月12日付)の記事からである。共同通信の配信記事なので、新聞やテレビが報じてくれないことにはまったく目にすることもなく埋もれてしまう。
ファイザー社製ワクチンは、人工的につくった遺伝物質メッセンジャーRNA(mRNA)を薄い脂膜でくるんでいるため、揺れや振動に弱く、壊れやすいという。
ところが厚生労働省は1月29日、ワクチンを小分けにして診療所での個別接種を行う「練馬区モデル」を発表し、解凍後のワクチンを2〜8度で車やバイクで移送するための保冷バッグ4万個をメーカーに発注し各自治体に配布した。その費用6億8,200万円という。
3月8日、ファイザーは小分け移送はマイナス90〜60度か、マイナス25〜15度の「冷凍が原則」とHPに掲載。専門家に相談して準備を進めていた世田谷区は、超低温冷凍(マイナス75度以下を想定)で移送されてくるワクチンの扱いに細心の注意を払うべく、冷凍設備をもった大きな会場での集団接種を基本と考えていた。そんな世田谷区の問い合わせに厚生労働省は、「小分け移送は自治体の責任で行うもので、厚労省は責任を負うものではない」と回答。
3月28日、ファイザーはHPから「冷凍が原則」の文字を削除し、「(冷蔵移送の場合)衝撃、振動を避けること」と記載した。そこで世田谷区が直接ファイザーへ問い合わせると、「冷蔵移送は避けてほしい。品質保持の観点から推奨しない」とのことだった。モデルとされた練馬区も、マイナス25〜15度での冷凍移送に決め、厚生労働省もバイクでの移送は削除した。
これで決まりかと思われたが、ファイザーが小分け移送を認めるという記事があった(『日本経済新聞』同年4月2日付)。これが冷凍状態なのか解凍したものなのかは不明だが、自分の地元の自治体がどういうやり方をするのか確認する必要がありそうだ。とくに診療所での接種を希望する場合は、どのように温度管理がされているのか気になってくる。
先の生理食塩水を接種してしまったという件は、ワクチンの容器に生理食塩水を注いで稀釈してから注射器に入れて使用することになっているが、54人接種したうちのひとりに生理食塩水をそのまま接種してしまったというもので該当者は特定されていない。2回目の接種の際に抗体検査を行うことによって特定するという。
人間の手でやることだから、今後もどんなミスでも起こりうると受けとめるしかないのだが、もし使用期限を過ぎたものや温度管理に失敗したワクチンを接種された場合どういうことが起こるのか、明らかにしてほしいところだ。
いずれにしろ、いまの日本政府の新型コロナへの対応はあまりにもお粗末だ。フランスの『リベラシオン』(同年5月13日付)は次のように報じている。
「(日本政府)当局は、ウイルス検査の拡大も、ワクチンに飛びつくことも、病院の体制強化も、必要な財政支援も、1年以上どれもせずにウイルスの流行を放置した」
いまの日本はPCR検査も充分ではなく、ワクチン開発、獲得にも大きく遅れていて、いくら菅首相がオリンピックをやる気満々であっても、外国から日本に来てもらえる環境をととのえられないのではなかろうか。 (2021/05)
<2021.5.15>
届いたコロナワクチン接種券等(写真提供/筆者)